犬と猫の多飲多尿
おしっこの回数や量が前より多いような…
犬と猫の多飲多尿
「最近、うちの子、お水を飲む量が増えた気がする…」 「おしっこの回数や量が前より多いような…」
大切な家族であるわんちゃん・ねこちゃんの些細な変化は、飼い主さんにとって心配の種ですよね。もし、以前よりもお水をたくさん飲み、おしっこをたくさんするようになったと感じたら、それは「多飲多尿(たいんたにょう)」という状態かもしれません。
多飲多尿は、それ自体が病名ではなく、体のどこかに不調があることを示すサインの一つです。この記事では、多飲多尿とは何か、どんな原因が考えられるのか、そして動物病院ではどのような検査や診断が行われるのかを、飼い主さんに分かりやすく解説します。
目次
「多飲多尿」ってどんな状態? – まずはチェックしてみましょう
多飲(たいん)とは? 普段よりも明らかに多くの量のお水を飲む状態のことです。
- わんちゃんの場合: 一般的に、1日に体重1kgあたり100ml以上のお水を飲むと多飲と考えられます。(例:体重5kgのわんちゃんなら500ml以上)
- ねこちゃんの場合: 一般的に、1日に体重1kgあたり50ml以上のお水を飲むと多飲と考えられます。(例:体重4kgのねこちゃんなら200ml以上)
ただし、これらはあくまで目安です。気温が高い日や運動後、ドライフードを主食にしている場合などは飲水量が増えることもあります。普段の飲水量を把握しておき、「いつもと比べてどうかな?」という視点が大切です。
多尿(たにょう)とは? おしっこの回数や量が普段よりも増える状態のことです。
- おしっこの回数が明らかに増えた
- 1回のおしっこの量が多い(おしっこシートがびっしょりになるなど)
- 夜中に何度もおしっこで起きるようになった
- 今までしなかった場所でおしっこをしてしまう(おもらし)
これらの変化に気づいたら、多飲多尿の可能性があります。
どうして多飲多尿になるの? – 考えられる主な原因
多飲多尿は、体内の水分バランスを調整する仕組みに何らかの問題が起きているサインです。その背景には、さまざまな病気が隠れていることがあります。
わんちゃん、ねこちゃんで比較的多く見られる原因には、以下のようなものがあります。
- 腎臓の病気(慢性腎臓病など): 腎臓は、体に必要な水分を再吸収し、不要なものを尿として排泄する大切な役割を担っています。腎臓の機能が低下すると、尿を濃縮する力が弱まり、薄いおしっこがたくさん出るようになります。その結果、失われた水分を補おうとしてお水をたくさん飲むようになります。
- 糖尿病: 血液中の糖分(血糖)が多くなりすぎると、尿の中にも糖があふれ出てきます。この時、糖と一緒に水分も尿としてたくさん排泄されてしまうため(浸透圧利尿)、脱水を補うためにお水をたくさん飲むようになります。食欲があるのに痩せてくる、といった症状が見られることもあります。
- ホルモンの病気:
- 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)(主にわんちゃん): 副腎からコルチゾールというホルモンが過剰に分泌される病気です。このホルモンの影響で、お水をたくさん飲み、おしっこも多くなります。その他、お腹が張る、毛が薄くなる、食欲が増すなどの症状が見られることがあります。
- 甲状腺機能亢進症(主にねこちゃん): 甲状腺から甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。体の代謝が活発になりすぎることで、多飲多尿のほか、たくさん食べるのに痩せてくる、攻撃的になる、よく鳴くなどの症状が見られます。
- 上皮小体(副甲状腺)機能亢進症: カルシウム濃度を調節するホルモンの異常で、血液中のカルシウム濃度が高くなりすぎると、腎臓の尿濃縮機能が妨げられ、多飲多尿になることがあります。
- 肝臓の病気: 肝臓の機能が低下すると、体内の水分バランスの調整に影響が出ることがあります。
- 子宮蓄膿症(避妊手術をしていない女の子のわんちゃん・ねこちゃん): 子宮の中に細菌が感染し、膿がたまる病気です。細菌が出す毒素の影響で、多飲多尿の症状が出ることがあります。元気消失、食欲不振、お腹の張り、陰部からの膿の排出なども見られます。緊急性の高い病気です。
- その他:
- 薬剤の影響: ステロイド剤や利尿剤など、一部の薬の副作用として多飲多尿が見られることがあります。
- 心因性多飲: ストレスなどが原因で、病的な理由なくお水を過剰に飲んでしまう状態です。
- 食事内容: 塩分の多い食事などは飲水量を増やすことがあります。
これらの原因は一部であり、他にも様々な病気が考えられます。自己判断せずに、獣医師に相談することが非常に重要です。
動物病院ではどんな検査をするの? – 診断までの流れ
「うちの子、もしかして多飲多尿かも…」と動物病院を受診すると、獣医師はまず、本当に多飲多尿かどうか、そしてその背景にどんな原因が隠れているのかを調べるために、以下のようなステップで診断を進めていきます。
- 詳しい問診:
- いつから症状が始まったのか、飲水量やおしっこの状態(回数、量、色など)は具体的にどう変化したか、他に変わった様子はないか(食欲、元気、体重の変化など)、普段の食事内容、投薬歴などを詳しくお伺いします。飼い主さんからの情報は診断の大きな手がかりになりますので、気づいたことは何でもお伝えください。
- 可能であれば、事前に24時間の飲水量を測っておくと、より正確な情報になります。
- 身体検査:
- 体重測定、体温測定、心音や呼吸音の聴診といった基本的な検査に加え、皮膚の状態(乾燥していないか)、お口の中(乾燥や口臭)、お腹の触診(腎臓や肝臓の大きさ、しこりの有無など)、リンパ節の腫れなどをチェックします。
- 尿検査:
- おしっこを採取して、その性状を詳しく調べます。
- 尿比重: おしっこの濃さを測ります。多尿の場合、薄いおしっこ(尿比重が低い)が出ていることが多いです。
- 尿試験紙: 尿中のタンパク、糖、ケトン体、潜血(血液が混じっているか)、pHなどを調べます。例えば、尿糖が出ていれば糖尿病の可能性が高まります。
- 尿沈渣(ちんさ)検査: 尿を遠心分離して底にたまった成分(細胞、細菌、結晶など)を顕微鏡で観察します。感染や結石、炎症などがないかを確認します。
- 場合によっては、尿中のタンパク質の量をより正確に調べる検査(尿タンパク/クレアチニン比)や、細菌感染が疑われる場合には尿の培養検査(どんな細菌がいて、どんなお薬が効くか調べる)を行うこともあります。
- 血液検査:
- 血液を採取して、全身状態や内臓の機能を評価します。
- 全血球計算(CBC): 赤血球、白血球、血小板の数を調べ、貧血や炎症、脱水などがないかを見ます。
- 血液生化学検査: 肝臓、腎臓、膵臓などの内臓の機能や、血糖値、電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)、タンパク質、コレステロールなどの値を調べ、異常がないかを確認します。
- 追加の検査:
- 上記の検査で原因が特定できない場合や、さらに詳しい情報が必要な場合には、以下のような検査を行うことがあります。
- ホルモン検査: 特定のホルモンの病気(クッシング症候群、甲状腺機能亢進症、尿崩症など)が疑われる場合に、血液中のホルモン濃度を測定します。特殊な刺激試験(薬を注射してホルモンの反応を見る)を行うこともあります。
- 画像検査:
- X線検査(レントゲン検査): 腎臓や膀胱の大きさ、形、結石の有無、胸部の状態(心臓や肺)などを確認します。
- 超音波検査(エコー検査): 腎臓、肝臓、副腎、膵臓、子宮などの内臓の内部構造をより詳しく見ることができます。しこりや炎症、形態の異常などを発見するのに役立ちます。
- CT検査やMRI検査: より詳細な情報が必要な場合に、専門施設に依頼して行うことがあります。
- 水制限試験・ADH負荷試験: 他の病気が否定された上で、尿崩症や心因性多飲が疑われる場合に、専門的な管理下で行われることがある検査です。
これらの検査を組み合わせることで、多飲多尿の原因となっている病気を特定し、適切な治療法を決定していきます。
飼い主さんに知っておいてほしい大切なこと
- 早めの相談が肝心です: 多飲多尿は、治療可能な病気の初期症状であることも少なくありません。早期に発見し、適切な治療を開始することで、わんちゃん・ねこちゃんの負担を減らし、より良い状態を長く保つことにつながります。
- 自己判断でお水の量を制限しないでください: 病気によっては、お水を制限することがかえって危険な状態を招くことがあります。必ず獣医師の指示に従ってください。
- 原因によって治療法は異なります: 多飲多尿の治療は、その原因となっている病気に対して行われます。獣医師とよく相談し、その子に合った治療法を選んでいきましょう。
- 記録をつけましょう: 普段から飲水量やおしっこの状態を気にかけて記録しておくと、変化に気づきやすく、動物病院を受診した際にも役立ちます。