愛荘どうぶつ病院https://selene-ah.comWed, 29 Oct 2025 03:43:21 +0000jahourly1FGF-23って何?獣医師が教える猫の慢性腎臓病(CKD)の進行を予測する重要マーカーhttps://selene-ah.com/fgf23/Sun, 19 Oct 2025 08:15:25 +0000https://selene-ah.com/?p=1661

こんな風に、動物病院で聞き慣れない「FGF-23」という言葉を告げられ、戸惑いや不安を感じていませんか? 大切な愛猫のことだからこそ、きちんと納得して治療を進めたいですよね。 この記事では、そんな飼い主様の不安や疑問を解 ... ]]>

獣医師
獣医師

ソラちゃんの検査結果ですが、『FGF-23』という数値が少し高めですね。

飼い主
飼い主

えふじーえふ…? 先生、それは何ですか? 初めて聞きました。

獣医師
獣医師

腎臓の負担を早期に知るための大切なマーカーです。血液検査の『リン』の数値はまだ正常範囲なのですが、このFGF-23が高いということは、水面下で腎臓がリンを排出しようと頑張り始めている、というサインなんです。ですから、そろそろ療法食を検討していきましょう。

飼い主
飼い主

リンは正常なのに、もう療法食なんですか…? なんだか不安です…。


こんな風に、動物病院で聞き慣れない「FGF-23」という言葉を告げられ、戸惑いや不安を感じていませんか?

大切な愛猫のことだからこそ、きちんと納得して治療を進めたいですよね。

この記事では、そんな飼い主様の不安や疑問を解消するため、慢性腎臓病(CKD)の管理で今、最も注目されているマーカー「FGF-23」について、獣医師が徹底的に解説します。

この記事でわかること

  • FGF-23が猫の腎臓病でなぜ重要なのか?
  • 数値が高いと、将来どんなリスクがあるの?(予後との関係)
  • リンが正常値でも食事療法を勧められる理由
  • 療法食を始めるべき具体的なFGF-23の数値(最新ガイドライン)
  • 次の診察で獣医師に確認すべきことリスト

【前半】愛猫のFGF-23が高いと言われた飼い主様へ

FGF-23は、腎臓の「隠れたSOSサイン」を見つける警報装置

猫の慢性腎臓病(CKD)では、「リン(P)」というミネラルの管理が非常に重要です。腎臓の機能が落ちてくると、体にリンが溜まりやすくなり、これがさらに腎臓にダメージを与えてしまうからです。

体には、このリンのバランスを保つための仕組みが備わっています。その司令塔の役割を果たすのが、骨から分泌される「FGF-23」というホルモンです。

腎臓の機能が少し落ち始めると、体はリンをなんとか排出しようと頑張って、FGF-23をたくさん分泌します。つまり、血液検査でリンの数値がまだ正常でも、水面下では腎臓が無理をしており、その負担がFGF-23の上昇という形で現れるのです。

FGF-23は、いわば「目に見えないリンの負担(隠れリン)」をいち早く知らせてくれる、早期警告アラームのようなものだとイメージしてください。

次の診察で安心するために。獣医師への相談・質問リスト

FGF-23について理解できても、いざ獣医師を目の前にすると何をどう聞けばいいか分からなくなってしまうことも。次の診察で、愛猫にとって最善の選択をするために、このリストを活用してください。

【次の診察に持参・確認しよう!やることリスト】

食事の記録: 今食べているフードやおやつの商品名と成分がわかる写真
体調のメモ: 最近の飲水量、尿の回数や量、食欲の変化などを記録したもの

【先生に聞いてみよう!質問リスト】

□ うちの子のFGF-23の具体的な数値はいくつですか?
□ この数値は、今後の病気の進行や予後とどう関係しますか?
□ いつから食事療法(リン制限)を始めるのが推奨されますか?
□(特に猫の場合)高カルシウム血症のリスクはありますか?イオン化カルシウムの測定は必要ですか?
□ もし食事療法を始めるなら、どんなフード(リン含有量など)が最適ですか?

【獣医師の視点】

診察室でFGF-23の結果をお伝えすると、「まだリンは正常なのに…」と戸惑われる飼い主様もいらっしゃいます。しかし、この「まだ正常」の段階でリンへの配慮を始めることが、実は5年後、10年後の愛猫のQOL(生活の質)を大きく左右する可能性があるのです。FGF-23は、体が頑張ってリンのバランスを保っている「努力の証」のようなもの。体が疲れ切ってしまう前に、食事という形でそっと手助けをしてあげる、というイメージを持っていただけると良いかもしれません。

前半のまとめ:サインを見逃さず、次のアクションへ

FGF-23は、愛猫の腎臓が発する「隠れたSOSサイン」です。このサインに早く気づき、かかりつけの獣医師と相談しながら適切な管理を始めることが、今後の穏やかな毎日のためにとても重要になります。不安な点があれば、ぜひ上記のリストを活用してください。

より専門的な体の仕組みや、FGF-23に関する詳しい研究内容について知りたい方は、このまま後半の解説もご覧ください。


【後半】より詳しく知りたい方へ

FGF-23の専門的解説:病態生理と臨床的意義

ここでは、FGF-23が獣医療においてなぜ重要視されるのか、より専門的な視点から解説します。

FGF-23の作用機序

FGF-23は、主に骨細胞から分泌されるホルモンで、2つの主な働きにより血中のリン濃度を下げます。

腎臓でのリン排泄促進

腎臓の尿細管に働きかけ、リンの再吸収を抑制し、尿中への排泄を促します。この作用には「Klotho(クロトー)蛋白」というパートナーが必要です。CKDが進行するとKlotho蛋白が減少し、FGF-23がたくさんあっても効きにくくなります(FGF-23抵抗性)。

活性型ビタミンD3の合成抑制

活性型ビタミンD3の合成を抑えることで、腸管からのリンの吸収を低下させます

【深掘り解説①】FGF-23と予後の関係

FGF-23は、CKDの進行度を測るだけでなく、将来のリスクを予測する「予後予測マーカー」として非常に優れています。

猫における予後との強い関連性
複数の研究により、FGF-23濃度が高い猫は生存期間が短いことが示されています。

犬についても報告は少ないですが、猫と同様にFGF-23が高値であると生存期間が短そうです。(他の要因も関係しているかもしれません。)

ネコ:FGF-23が700 pg/mLを超えると予後が悪化し、10,000 pg/mLを超えると極めて予後が悪い。

イヌ:FGF-23が450pg/mlを越えているかどうかで分けると予後の差がみられている


PTHよりも早期に異常を検出

従来、リンの代謝異常の指標としては上皮小体ホルモン(PTH)が測定されてきました。しかし、FGF-23はPTHよりも早い段階から上昇し始めます。ある研究では、犬のIRISステージ2において、FGF-23の上昇が73%で見られたのに対し、PTHの上昇は31%に留まりました。この早期検出能力の高さが、FGF-23がより注目される理由の一つです。


これはヒトでのデータ

糸球体ろ過量(GFR)が低下していく中でリンの上昇より前にFGF-23が最も早く上昇する。

腎臓の機能低下を早く検出するためには使えない

これをみると「SDMAが早期に腎機能の低下を検出するかも?(諸説あり)」と言われているようにFGF-23も使えるのでは?と思われるかもしれませんが、現時点ではリンの管理での使用のみになります。

GFRとは「糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate)」の略で、腎臓の機能を示す値です。腎臓の糸球体が1分間にどれくらいの血液を濾過して尿の元を作れるかを示し、この値が低いほど腎臓の機能が低下していることを意味します。

まだ腎臓の数値(クレアチニンなど)が正常なIRISステージ1の猫でも、FGF-23が高いと1年以内に高窒素血症を発症するリスクが高いこともわかっています。

【深掘り解説②】治療への応用と最新ガイドライン

FGF-23の測定は、実際の治療方針を決定する上で重要な役割を果たします。FGF-23が高値を示した場合の主な治療法は、食事やサプリメントによって体内のリンをコントロールする「リン制限」です。

  • 猫のCKD治療の新常識:IRISガイドライン
    国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)ガイドラインでは、猫のCKDステージ1および2において、FGF-23の数値に基づいた具体的な治療開始基準が導入されました。(犬では未設定)
    • FGF-23 > 400 pg/mL: 血清リン濃度が正常でも、この値を超えた場合はリン制限食(腎臓病用療法食)の開始が提言されています。食事からのリン摂取を減らすことが第一の治療となります。
    • FGF-23 > 700 pg/mL: 食事療法だけでは不十分と判断され、食事中のリンを消化管で吸着して便として排泄させる「リン吸着剤」の使用が推奨されます。
  • FGF-23測定時の注意点:高カルシウム血症との関連
    FGF-23が高値を示した場合、特に猫では注意すべき「落とし穴」があります。それは、リンの蓄積だけでなく「高カルシウム血症」によってもFGF-23が上昇することがある、という点です。
    もし、この高カルシウム血症が隠れている猫に、画一的にリン制限が強化された腎臓病用療法食を与えると、高カルシウム血症を悪化させ、かえって腎臓にダメージを与えてしまう危険性があります。
    そのため、FGF-23が高値の猫では、イオン化カルシウム(Ca²⁺)も同時に測定し、全身のミネラルバランスを評価した上で、個々の状態に合わせた慎重な食事選択(リン含有量が調整されたフードなど)が求められます。(通常の生化学検査ではなく、外注やイオン化カルシウムの測定機器があります。)

【深掘り解説③】FGF-23を測定せずにリン制限を行うリスク

では、FGF-23を測定せず、IRISステージだけを基に画一的にリン制限を始めると、どのような医学的リスクがあるのでしょうか。

  • 栄養不良による筋肉量低下(サルコペニア)のリスク
    腎臓病用療法食は、リンと共にタンパク質も制限されていることが一般的です。しかし、まだリン制限が不要なCKDの早期ステージ(FGF-23が正常範囲内)の猫に過度な食事制限を行うと、タンパク質不足による筋肉量の低下(サルコペニア)や体重減少を招く可能性があります。猫のCKDでは、筋肉量を維持することが生存期間にも関わるため、不必要な食事制限はかえって健康寿命を縮める危険性があります。
  • 隠れた高カルシウム血症を悪化させるリスク
    前述の通り、FGF-23を測定しなければ、高値の原因がリンの蓄積なのか高カルシウム血症なのかを区別できません。もし高カルシウム血症が原因である猫に、画一的に腎臓病療法食を与えてしまうと、高カルシウム血症をさらに悪化させ、腎臓への石灰化などを通じてCKDの進行を早めてしまうという最も避けたい事態を招くリスクがあります。

基本的な治療方針

リンやFGF-23、イオン化カルシウムを測定して、以下の状態にそれぞれ対応していく。(測定できない場合はリンのみでひとまず対応していくことになる。)

  • 高リン血症➤リン制限食やリン吸着剤
  • 低カルシウム血症➤カルシウム補充やカルシトリオール
  • 高カルシウム血症➤カルシウム受容体作動薬

治療薬の選択はそれぞれの状態に応じて使い分けます。

専門的なFAQ

FGF-23は、腎臓病そのものを診断する検査ですか?
いいえ、FGF-23はCKDの診断マーカーとしては利用できません。CKDと診断された後、主にリンなどのミネラル代謝異常の程度を把握し、食事療法といった治療方針を決めるための「病態把握マーカー」として活用されます。
腎臓病の早期マーカーとして知られる「SDMA」とはどう違うのですか?
SDMAは主に腎臓の濾過機能(GFR)の低下を早期に反映するマーカーです。一方、FGF-23はGFRの低下に伴って起こる「リンの蓄積(ミネラル代謝異常)」を早期に反映するマーカーです。それぞれ腎臓の異なる側面の状態を示しています。FGF-23は腎臓以外の影響での変動が大きく、GFRを反映しているとは限らないです。
犬には、猫のようなFGF-23を使った食事療法の基準はないのですか?
はい、2024年現在、IRISガイドラインで犬の早期CKDに対する明確なFGF-23の数値基準は示されていません。しかし、犬においてもFGF-23がCKDの進行や予後と関連する重要なマーカーであることは確認されており、獣医師の総合的な判断のもとで食事療法を開始する指標の一つとして活用されています。

まとめ

FGF-23は、猫の慢性腎臓病(CKD)の管理を大きく変える可能性を秘めた、非常に重要なバイオマーカーです。この数値を正しく理解し、かかりつけの獣医師と密に連携することで、画一的な治療ではなく、愛猫一頭一頭の状態に合わせた、よりきめ細やかな治療計画を立てることが可能になります。

この記事が、飼い主様の不安を少しでも和らげ、愛猫との大切な時間を穏やかに過ごすための一助となれば幸いです。

参考文献・引用元リスト
  • 富士フイルム 内分泌検査
  • イヌとネコの腎泌尿器病学
  • International Renal Interest Society (IRIS) Guidelines
  • Veterinary Internal Medicine 9th Ed.
  • Isakova T, Wahl P, Vargas GS, et al. Fibroblast growth factor 23 is elevated before parathyroid hormone and phosphate in chronic kidney disease. Kidney Int 2011 79: 1370-1378.
  • Miyakawa H, Hsu HH, Ogawa M, et al. Association between serum fibroblast growth factor-23 concentrations and blood calcium levels in chronic kidney disease cats with upper urolithiasis. J Feline Med Surg. 2022.
  • Finch NC, Geddes RF, Syme HM, et al. Fibroblast growth factor 23 (FGF-23) concentrations in cats with early nonazotemic chronic kidney disease (CKD) and in healthy geriatric cats. J Vet Intern Med 2013; 27: 227-233.
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【滋賀県版2025年】犬のワクチン接種の選択をどうするか?https://selene-ah.com/lept/Wed, 15 Oct 2025 11:04:20 +0000https://selene-ah.com/?p=1675

当院では犬の混合ワクチン接種では5種混合ワクチンと4種のレプトスピラワクチンを組み合わせています。 ライフスタイルに応じてレプトスピラワクチンを追加するかどうかを考えることになります。 レプトスピラ症は、「スピロヘータ」 ... ]]>

当院では犬の混合ワクチン接種では5種混合ワクチンと4種のレプトスピラワクチンを組み合わせています。

ライフスタイルに応じてレプトスピラワクチンを追加するかどうかを考えることになります。

レプトスピラとは?

レプトスピラ症は、「スピロヘータ」という細菌の一種である病原性レプトスピラによって引き起こされる、犬だけでなく人にも感染する可能性がある人獣共通感染症です。

主にネズミ(特にドブネズミ)が病原体を保有しているとされ、これらの動物の尿によって汚染された水や土壌が感染源となります。

犬や人は、そうした汚染環境に皮膚の傷や粘膜(口や鼻など)が接触することで感染します。

レプトスピラには300種類以上のタイプが知られており、非常に多様性の高い細菌です。

人のレプトスピラ症 ~犬は人の主要な感染源ではありません~

人のレプトスピラ症は、軽い風邪のような症状から、重症化すると黄疸、腎障害、出血などを引き起こすことまである、非常に多様な症状を示す感染症です。日本では感染症法に基づく「四類感染症」に指定されており、診断した医師は直ちに保健所へ届け出ることが義務付けられています。

国内では年間平均で約40例の発生報告があります。季節的には夏から秋(特に7月~10月)に集中する傾向が見られます。国内の感染例の約半数は沖縄県で報告されており、その多くは汚染された河川でのレジャー活動が原因と考えられています。

一方で、犬が人の主な感染源となることは極めてまれです。国内で報告された人の感染例のうち、犬との接触が感染源として疑われたのはごく一部に過ぎず、いずれも犬からの感染であると証明されたわけではありません。海外の調査でも、感染した犬と濃厚に接触していた飼い主への感染は確認されなかったという報告があります。

以上のことから、犬が人の直接的な感染源となるケースは非常に少ないと考えられます。

ただし、万が一ご自身の犬がレプトスピラ症と診断された、あるいはその疑いがある場合は、念のため適切な衛生管理(排泄物の適切な処理、触れた後の手洗いなど)を徹底することが推奨されます。

犬のレプトスピラ症

犬のレプトスピラ症も人と同様に、症状は非常に多様です。無症状の場合もあれば、発熱、食欲不振、嘔吐といった比較的軽い症状、重症化すると腎臓や肝臓、肺に深刻なダメージを与え、命に関わることもあります。重症化した場合の致死率は53.2%と非常に高いことが国内で報告されています。初期段階では特徴的な症状が見られないことも多く、診断が難しい病気の一つです。

犬における致死率は非常に高い!

季節的には、下記のグラフが示すように、報告例全体の75%が9月〜12月に集中しており、特に秋口からは注意が必要です。

犬のレプトスピラ症の届出数

滋賀県における犬のレプトスピラ症のリスクと対策

犬におけるレプトスピラ症の発生状況は、地域によって大きく異なります。農林水産省が公表している届出データによると、レプトスピラ症の届出は西日本および太平洋側に多く、滋賀県を含む近畿地方は発生が多い地域であることが示されています。

当院が拠点を置く滋賀県は、犬のレプトスピラ症の届出数が比較的多い地域です。先ほどのグラフにも示したように、2015年から2024年の10年間で19頭の発生が報告されています。これは、近隣の京都府(5頭)や大阪府(7頭)と比較しても多い数字であり、滋賀県内で犬が感染するリスクが決して低くないことを示唆しています。

滋賀県は琵琶湖をはじめとする湖沼や河川、田畑など、自然豊かな環境が広がっています。

そのため、保菌動物であるネズミなどが排泄した尿によって土壌や水辺が汚染されている可能性が考えられます。

特に、水辺での散歩やアウトドア活動、ドッグランなどを頻繁に利用するワンちゃんは感染リスクが高まるため、注意が必要です。

犬のレプトスピラワクチンの注意点 ~過剰な期待は禁物です~

滋賀県は発生報告が多い地域であるため、レプトスピラワクチンの接種を積極的に検討する必要があります。ただし、ワクチンについて飼い主様ご自身が正しく理解しておくことが大切です。

レプトスピラには多数の血清型(タイプ)が存在するため、流行している血清型とワクチンに含まれる血清型が一致していなければ、十分な効果は期待できません。実際、2017年に大阪府内で発生した集団感染では、11頭が感染し9頭が死亡しました。そのうち6頭はレプトスピラワクチンを接種していたにもかかわらず死亡しており、ワクチンの血清型と感染したウイルスの型が一致しなかった可能性が示唆されています。

血清型が異なると防御効果はあまり期待できない

犬における地域別の流行血清型については、残念ながら十分な情報がありません。

他県での調査では、国内で利用可能なワクチンで予防できる「イクテロヘモラジー」や「カニコーラ」が多数を占める報告がある一方で、ワクチンでは予防できない「ヘブドマディス」や「オーストラリス」といった血清型が多数を占めたという報告もあります。

現在市販されているワクチンは、全ての血清型をカバーできるわけではありません。また、レプトスピラワクチンの効果は1年ほどしか持続しないため、毎年追加接種が必要になります。このような理由から、ワクチンを接種していても100%は安心できないという限界があり、過剰な期待は避けるべきです。

結論として:滋賀県での予防について

大阪府の集団感染事例では、感染した犬の多くが同じ河川敷を散歩コースとしていたことがわかっています。レプトスピラ菌を持つネズミや野生動物が生息する河川や水源周辺、水たまり、ぬかるみなどは感染リスクが高い場所です。

以上の点を踏まえると、100%安心できるわけではありませんが、発生報告の多い滋賀県にお住まいのワンちゃんには、レプトスピラワクチンの接種を推奨いたします。

特に、以下のようなライフスタイルの場合は、より接種の必要性が高いと言えるでしょう。

  • 琵琶湖や河川、田んぼの周りなどをよく散歩する
  • アウトドアやキャンプ、ドッグランによく行く
  • 雨上がりの水たまりやぬかるみで遊ぶのが好き

ワクチンには、ごくまれながら副反応のリスクもあります。しかし、致死率の高いレプトスピラ症のリスクを考慮すると、接種のメリットは大きいと考えられます。

最終的には、ワクチンの効果と限界、そして副反応のリスクを総合的にご理解いただいた上で、皆様のワンちゃんのライフスタイルに合わせて判断していただくことが重要です。ご不明な点がございましたら、いつでもご相談ください。

ワクチンの料金についてはこちらから

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非常に珍しい「シリカ結石」と犬に診断されたら?原因と食事療法を最新データで解説https://selene-ah.com/silica/Tue, 14 Oct 2025 01:05:00 +0000https://selene-ah.com/?p=1616

この記事では、愛犬が「シリカ結石」と診断されて不安を抱える飼い主様に向けて、その原因からご家庭でできる予防・管理法までを、最新のデータと獣医師の視点を交えながら分かりやすく解説します。 この記事でわかること 目次 この記 ... ]]>

獣医師
獣医師

こんにちは。最近おしっこの時に痛そうにするとのことで、ご心配でしたね。

飼い主
飼い主

はい、先生。それに血尿も出ていて…。検査で『シリカ結石』の可能性があると聞いて、聞いたことのない病名ですごく不安で…。今まで元気だったので、私のフード選びが悪かったのでしょうか…?

獣医師
獣医師

ご不安になりますよね。シリカ結石は非常に珍しいタイプの尿石なので、情報が少なく戸惑うのも無理はありません。でも、ご安心ください。決して○○さんのせいではありませんよ。なぜシリカ結石ができるのか、そしてこれからどうすれば良いのか、一緒に一つずつ確認していきましょう。

この記事では、愛犬が「シリカ結石」と診断されて不安を抱える飼い主様に向けて、その原因からご家庭でできる予防・管理法までを、最新のデータと獣医師の視点を交えながら分かりやすく解説します。

この記事でわかること

  • シリカ結石がどんな病気か(発生頻度と2023年の最新データ)
  • なぜ激しい血尿や痛みがでるのか(ジャックストーン形状の特徴)
  • シリカ結石の主な原因(注意すべきペットフードの原材料)
  • 動物病院で行われる検査と治療の選択肢
  • 再発を防ぐための食事管理と家庭でできること

【前半】愛犬の血尿や痛み…「シリカ結石」で悩む飼い主様へ

非常に稀だけど注意が必要な「シリカ結石」とは?

まず知っていただきたいのは、シリカ結石は数ある尿石の中でも非常に発生頻度が低い、珍しいタイプの結石であるということです。

世界の犬の尿石を分析している専門機関「ミネソタ大学 尿石センター」の2023年の最新データによると、63,762件の犬の尿石のうち、シリカ結石が占める割合は1%未満でした。猫においては、最も稀な結石とされています。

「珍しいなら、うちの子は大丈夫」と思われるかもしれませんが、この結石には他の尿石にはない、やっかいな特徴があるのです。

激しい血尿・痛みの原因は「ジャックストーン」というトゲトゲの形

犬から摘出されるシリカ結石のほとんどは、「ジャックストーン」と呼ばれ、まるで金平糖のようなゴツゴツ、トゲトゲした形をしています。

この鋭い突起が膀胱の壁を物理的に傷つけてしまうため、他の結石症と比べて血尿や排尿時の痛みといった症状が、より強く、激烈に出やすいという特徴があります。愛犬が排尿時に鳴いたり、痛がったりする姿を見るのは、飼い主様にとって本当にお辛いことだと思います。

主な原因は「食事」に含まれる特定の植物由来成分

なぜ、このような特殊な結石ができてしまうのでしょうか。
シリカ結石の主な原因は、食事に含まれる特定の植物由来成分の過剰摂取であると考えられています。

特にリスクを高める可能性があるとされる原材料には、以下のようなものが挙げられます。

  • コーン・グルテン・フィード
  • 米や大豆の外皮
  • 全粒穀物(intact grains)

これらの成分は、特に肥満犬向けや減量用に設計されたドッグフードに使用されていることがあります。「穀物入りは体に良い」というイメージがあるかもしれませんが、シリカ結石のリスクという側面からは、注意が必要な場合があるのです。

【動物病院へ行く前に】獣医師に伝えるべきことチェックリスト

愛犬に血尿などの疑わしい症状が見られたら、まずは落ち着いて、かかりつけの動物病院へ相談することが第一です。その際、以下の情報を整理しておくと、診察がスムーズに進み、より的確な診断に繋がります。

  • [ ] いつから症状が始まりましたか? (例:3日前から)
  • [ ] 具体的な症状を教えてください (例:血尿、おしっこの回数が多い、排尿時に鳴く、陰部を気にして舐める)
  • [ ] 尿の色は? (例:真っ赤、ピンク色、オレンジ色)
  • [ ] 元気や食欲はありますか?
  • [ ] 今与えているフードの名前を教えてください (パッケージを持参するか、写真を撮っておくと確実です)
  • [ ] おやつやサプリメントを与えていますか? (与えている場合はその種類も)
  • [ ] 過去に尿石症や膀胱炎と診断されたことはありますか?

【前半のまとめ】まずは落ち着いて動物病院へ

ここまで、犬のシリカ結石の症状と原因について解説しました。この結石は非常に稀ですが、金平糖のようなトゲトゲした形状が特徴で、愛犬に強い痛みや血尿を引き起こすことがあります。

もし愛犬に血尿や排尿痛などの症状が見られる場合は、自己判断で様子を見ず、必ず動物病院を受診してください。

後半では、より専門的な内容として、シリカ結石の詳しい病態や、診断・治療の選択肢、そして治療せずに放置した場合のリスクについて、参考資料に基づいて詳しく解説していきます。


【後半】より詳しく知りたい方へ

ここからは、より専門的な知識を深めたい飼い主様のために、シリカ結石の診断・治療法やリスクについて詳しく解説します。

病態生理:なぜフードの成分が結石になるのか?

ペットフードに含まれる植物由来のシリカは、体内で吸収された後、血液を介して腎臓に運ばれ、尿中へと速やかに排泄されます。

通常であれば問題ありませんが、フードにシリカが多く含まれていると、尿中へのシリカ排泄が過剰になります。その結果、尿中のシリカ濃度が飽和状態を超え、結晶化し、やがて結石へと成長してしまうのです。これが、シリカ結石が「食事性リスクファクター」によって引き起こされると言われる所以です。

診断と治療法の選択肢

【診断】
シリカ結石の診断は、主にX線検査超音波(エコー)検査によって行われます。
シリカ結石は、ストルバイト結石とほぼ同じくらいのX線不透過性(レントゲンで白く写る性質)を持っています。そのため、結石が十分な大きさであれば、X線検査でその存在を検出することが可能です。結石が大きくなると、X線写真上でもジャックストーン特有のトゲトゲした輪郭が確認できることがあります。

【治療】
残念ながら、現時点ではシリカ結石を食事療法や薬で効果的に溶かす(内科的溶解)方法は確立されていません。

そのため、シリカ結石に対する治療は、外科手術による結石の摘出が第一選択となります。

【重要】シリカ結石を治療せずに放置した場合のリスク

「症状が落ち着いたから大丈夫だろう」と自己判断で治療を中断したり、放置したりすることは非常に危険です。シリカ結石を放置した場合、以下のようなリスクが考えられます。

  • 継続的な痛みとストレス: 結石のトゲが常に膀胱を刺激し続けるため、愛犬は慢性的な痛みと不快感に苦しむことになります。
  • 難治性の細菌性膀胱炎: 結石によって傷ついた膀胱粘膜は細菌が繁殖しやすくなり、抗生物質だけでは治りにくい「細菌性膀胱炎」を併発するリスクが高まります。
  • 尿道閉塞(命の危険): 小さな結石や砕けた破片が尿道に詰まると、尿が全く出せない「尿道閉塞」を引き起こす可能性があります。これは急性腎不全や尿毒症につながる、命に関わる緊急事態です。特に雄犬は尿道が細長いため、閉塞のリスクがより高くなります。

再発予防が最も重要!食事と飲水管理

外科手術で結石を取り除いた後、最も重要なのは「再発させない」ことです。そのための基本は、食事と飲水の管理です。

  1. 食事の見直し
    再発予防のためには、原因となる高シリカ成分(コーングルテンフィード、米や大豆の外皮など)を含まない食事を選ぶことが推奨されます。具体的には、動物性タンパク質が主体の、野菜が少ないフードへの切り替えを検討します。どのフードが適切かについては、必ず獣医師に相談してください。
  2. 飲水量を増やす
    これは、あらゆる尿石症の予防に共通する最も重要なポイントです。水分摂取量を増やして尿の量を増やし、尿を薄める(希釈する)ことで、結石の元となる成分が結晶化しにくくなります。
    • ドライフードにぬるま湯をかける
    • ウェットフードを食事に取り入れる
    • 新鮮な水をいつでも飲めるように、水飲み場を増やす
      といった工夫が有効です。

【獣医師の視点】おやつにも要注意!異食癖はありませんか?

食事療法を頑張っていても、意外なところに見落としがあるケースも。例えば、植物由来の成分が多いビスケットタイプのおやつが原因になることもあります。また、シリカ尿石症の犬の中には、泥や土、石などを食べてしまう『異食症』を持つ子がいることも報告されています。お散歩中の拾い食いなど、思い当たる行動がないかどうかも注意してみてください。

専門的なFAQコーナー

シリカ結石の療法食はありますか?
現在、シリカ結石を溶かすことを目的とした専用の療法食は確立されていません。治療の基本は外科的な摘出となります。ただし、再発予防のために、原因となりうる植物性タンパク質や穀類(特にコーングルテンフィードなど)の含有量が少ない食事への変更が推奨されます。
ジャーマン・シェパード・ドッグはシリカ結石になりやすいというのは本当ですか?
はい、犬種としての関連性が報告されており、ジャーマン・シェパード・ドッグはシリカ尿石症の素因を持つと考えられています。また、発生した犬の約90%は雄(主に去勢雄)であることも分かっています。
再発を防ぐために、食事以外で気をつけることはありますか?
前述の通り、水分摂取量を増やし、尿を薄める(希釈する)ことが、あらゆる尿石症の予防において最も重要です。ドライフードに水を加えたり、ウェットフードを活用したりして、飲水量を増やす工夫をしましょう。

まとめ:正しい知識で、愛犬を苦しみから救おう

シリカ結石は非常に珍しい病気ですが、その特徴的な形状から、愛犬に大きな苦痛を与えかねません。しかし、原因の多くが食事に関連しているため、正しい知識を持って管理すれば、再発のリスクを大きく減らすことが可能です。

もし愛犬がシリカ結石と診断されたら、決してご自身を責めず、まずはかかりつけの獣医師とよく相談し、最適な治療と再発予防のプランを一緒に立てていきましょう。

参考文献・引用元リスト

・[Minnesota Urolith Center, University of Minnesota. (2024). 2023 Global Urolith Data.]
・[第8章 尿石症. In イヌとネコの腎・泌尿器病学.]
・[Queau, Y. (2022). Chapter 159: Nutritional Management of Lower Urinary Tract Disease. In Ettinger, S. J., Feldman, E. C., & Cote, E. (Eds.), Ettinger's Textbook of Veterinary Internal Medicine (9th ed.).]
・[Defarges, A., & Furrow, E. (2022). Chapter 308: Lower Urinary Tract Urolithiasis in Dogs. In Ettinger, S. J., Feldman, E. C., & Cote, E. (Eds.), Ettinger's Textbook of Veterinary Internal Medicine (9th ed.).]

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猫の血尿・頻尿は病気のサイン?下部尿路疾患の原因と今すぐ飼主ができることhttps://selene-ah.com/fic/Sun, 12 Oct 2025 23:07:35 +0000https://selene-ah.com/?p=1643

この記事では、そんな飼い主様の不安に寄り添い、以下の点について獣医師が分かりやすく解説します。 【前半】愛猫のおしっこトラブルで悩む飼い主様へ 猫の下部尿路疾患(FLUTD)とは、膀胱や尿道といった「下部尿路」に起こるさ ... ]]>

飼い主
飼い主

先生、うちの子がさっきから何度もトイレに行くんです…。でも、少ししか出ていなくて…よく見たら、おしっこがピンク色で、血が混じっているみたいなんです!食欲もなくて、なんだか辛そうにソファの下に隠れてしまって…。何か大変な病気なんでしょうか?

獣医師
獣医師

それはご心配ですよね。血尿が出ているのを見ると、誰でも不安になります。落ち着いてください、大丈夫ですよ。その症状は、猫ちゃんによく見られる『猫下部尿路疾患(FLUTD)』のサインかもしれません。多くの飼い主様が、あなたと同じように心配されて動物病院にいらっしゃいます。

飼い主
飼い主

そうなんですね…。どうしたらいいのか分からなくて…。

獣医師
獣医師

お気持ちお察しします。今から、その病気がどういうものなのか、そして飼い主様がお家で何ができるのか、順番に分かりやすく解説していきますね。この記事を読めば、きっと次にすべきことが明確になりますから、一緒に見ていきましょう。


この記事では、そんな飼い主様の不安に寄り添い、以下の点について獣医師が分かりやすく解説します。

この記事でわかること

  • なぜおしっこトラブルが起きるのか?最新の考え方「パンドラ症候群」とは
  • 今すぐできる!動物病院へ行く前に準備すべきチェックリスト
  • 愛猫のストレスを減らし、再発を防ぐための具体的な環境改善(MEMO)
  • 特発性膀胱炎の詳しい治療法や予後についての専門的な解説

【前半】愛猫のおしっこトラブルで悩む飼い主様へ

猫の下部尿路疾患(FLUTD)とは、膀胱や尿道といった「下部尿路」に起こるさまざまな病気の総称です。

その原因には尿石症や細菌感染症、腫瘍、先天性疾患などいくつかありますが、中でも圧倒的に多く見られるのが「特発性膀胱炎(FIC)」です。報告によると、下部尿路疾患の症状で動物病院を訪れる猫のうち、約60%(3分の2近く)がこの特発性膀胱炎(FIC)に該当すると言われています。

ですから、愛猫のおしっこトラブルの原因を理解し、適切に対処するためには、まずこの「特発性膀胱炎(FIC)」について知ることが非常に大切になります。

症状としては、以下のようなサインが見られます。

  • 頻尿(何度もトイレに行くが、少ししかおしっこが出ない)
  • 血尿(おしっこがピンク色や赤色になる)
  • 排尿困難(おしっこをしようといきんでいるが、出ていない)
  • 不適切な場所での排尿(トイレ以外で粗相をしてしまう)
  • 排尿時の痛み(痛そうに鳴き声をあげる)

これらの症状の背景には、単なる膀胱の問題だけではない、「パンドラ症候群」という全身的なストレス反応が関わっているという考え方が近年注目されています。

特発性膀胱炎とパンドラ症候群

これまで「原因不明」とされてきた猫の特発性膀胱炎(FIC)ですが、研究が進み、その多くは「パンドラ症候群」という、より大きな枠組みの中で起きていると考えられるようになりました。

これは、猫が慢性的なストレス(脅威)を感じ続けることで、脳の司令塔(中心脅威応答システム)が過剰に反応し、その影響が膀胱炎という症状だけでなく、消化器や皮膚、行動の変化など、全身に現れる状態を指します。つまり、特発性膀胱炎は、パンドラ症候群という全身状態が、特に膀胱に強く現れたものなのです。

動物病院へ行く前に:獣医師に伝えるべき観察ポイント

的確な診断のためには、飼い主様からの情報が何より重要です。動物病院へ行く前に、以下の点をチェックして獣医師に伝えてください。

  • [ ] 症状はいつから?(例:今朝から、2日前から)
  • [ ] 血尿はありますか?(色:鮮やかな赤、ピンク、茶色など)
  • [ ] トイレに何回くらい行きますか?(例:1時間に5回以上)
  • [ ] 1回のおしっこの量は?(例:ポタポタ程度、全く出ていない)
  • [ ] 排尿時の様子は?(例:いきんでいる、痛そうに鳴く、そわそわする)
  • [ ] トイレ以外の場所で粗相はしましたか?
  • [ ] 食欲と元気はありますか?
  • [ ] 水は飲んでいますか?
  • [ ] 最近、環境が変わったことは?(例:引っ越し、新しい猫が来た、模様替えした)
【!緊急!】おしっこが出ていないときは要注意


特にオス猫で、丸一日おしっこが全く出ていない場合は、命に関わる尿道閉塞の可能性があります。様子を見ずに、すぐに動物病院を受診してください。


【後半】より詳しく知りたい方へ

ここからは、下部尿路疾患の背景にあるメカニズムや、具体的な治療・管理方法について、より専門的に解説していきます。

原因と病態生理

1. 特発性膀胱炎(FIC)とパンドラ症候群
前述の通り、FICは単なる膀胱の炎症ではありません。引っ越しや同居猫との不和、騒音といった慢性的なストレスが脳の「中心脅威応答システム」を常に活性化させ、神経系や内分泌系、免疫系のバランスを崩します。その結果として、膀胱粘膜のバリア機能が低下したり、痛みを感じやすくなったりすることで、膀胱炎の症状が引き起こされると考えられています。

2. 尿石症
尿中のミネラル成分が結晶化し、結石となる病気です。猫で特に多いのは「ストルバイト尿石」「シュウ酸カルシウム尿石」です。これらの結石が膀胱の粘膜を傷つけることで、血尿や頻尿といった症状を引き起こします。

診断

診断は、尿検査や超音波検査、レントゲン検査などを組み合わせて行われます。特発性膀胱炎(FIC)の診断は、尿石症、細菌感染症、腫瘍といった、類似の症状を示す他の病気の可能性を一つずつ除外していくことで、総合的に判断されます。


猫の特発性膀胱炎(FIC)、治療法の詳細

猫の特発性膀胱炎(FIC)の治療を考える上で非常に重要なのは、この病気が人の「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(IC/BPS)」と病態が非常によく似ているという点です。

実際に、日本泌尿器科学会などが編集した『間質性膀胱炎・膀胱痛症候群 診療ガイドライン』 を見ても、その治療方針には多くの共通点があります。

人のIC/BPS治療では、まず薬物以外の「保存的治療」が基本とされています 。具体的には、「緊張の緩和(Stress reduction)」「食事療法(Dietary modification)」が、いずれも推奨グレードB(行うよう勧められる)と明記されているのです 。これは、猫のFIC治療の根幹が、まさに「多面的環境改善(MEMO)」というストレス管理と食事管理にあることと、全く同じ考え方です。人の医療におけるエビデンスが、猫の環境改善の重要性を裏付けていると言えるでしょう。

また、薬物療法においても、人の難治例に対して推奨グレードBで勧められている「アミトリプチリン」* は、猫の重度で難治性のFICで検討される薬物と共通しています。

このように、FICの治療は単一の特効薬に頼るのではなく、人の医療と同様に、環境、食事、そして必要に応じた薬物療法を組み合わせた多角的なアプローチが重要となります。治療は、症状が強く出ている「急性期」と、再発を防ぐための「慢性期」の2つのフェーズに分けて考えます。

1. 急性期の治療:まずは辛い痛みを和らげる(数日〜1週間程度)

この段階の最優先目標は、猫が感じている痛みと不快感を速やかに取り除くことです。

  • 鎮痛薬の投与:
    獣医師は、猫の状態に合わせて鎮痛薬(例:ブプレノルフィンなど)を処方します。これにより、排尿時の痛みを和らげ、猫の苦痛を軽減します。
  • 抗不安薬・鎮静薬:
    ストレスや痛みが強い場合、精神的な緊張を和らげる薬が処方されることがあります。これにより、不安が原因で起こる尿道の筋肉の痙攣(けいれん)を緩め、排尿をスムーズにする効果も期待できます。
  • 輸液療法:
    脱水が見られる場合や、尿を希釈して膀胱への刺激を減らす目的で、皮下点滴や静脈点滴が行われることがあります。

これらの治療は、あくまで今ある症状を抑えるための対症療法です。FICの根本的な問題は、次の「慢性期の管理」で対処していくことになります。

2. 慢性期の管理:再発させないための多角的なアプローチ(生涯にわたるプロセス)

FICは再発しやすい慢性的な状態であるため、「治す」というより「症状をコントロールし、うまく付き合っていく」という視点が非常に重要です。その中心となるのが以下の3つの柱です。

【最重要】① 多面的環境改善(MEMO)

これがFIC治療の根幹です。薬物療法よりも重要かつ効果的であるとされています。猫が感じる「脅威」を減らし、「自分で環境をコントロールできる」という感覚を高めることで、ストレス反応の引き金を引かないようにするアプローチです。

【獣医師の視点】
以前、頻繁に膀胱炎を繰り返していた猫ちゃんが、飼い主様のご協力でトイレの数を一つ増やし、静かな場所に移動しただけで、ピタッと再発が止まったケースがありました。ほんの少しの変化が、猫にとっては大きな安心に繋がることがあります。

具体的なMEMOの要素(健康なネコの環境の5つの柱)
  • 安全な場所の提供: 誰にも邪魔されずに隠れたり休んだりできる場所(段ボール箱、棚の上など)を確保する。
  • 重要な資源の分散: 食事、水、トイレ、爪とぎ、休息場所を複数(理想は猫の数+1個)、家の別々の場所に配置する。
  • 遊びと捕食本能の発散: おもちゃを使って、獲物を狩るような遊びの機会を毎日作る。
  • ポジティブな人との関係: 猫からのサインを尊重し、無理に抱っこしたり撫でたりしない。
  • 匂いを尊重した環境: 香りの強い芳香剤などを避け、猫自身のフェロモン(頬をこすりつけるなど)が残る環境を大切にする
参考https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11383066/AAFP and ISFM Feline Environmental Needs Guidelines

1. 安全な場所の提供

  • 目的: 猫が誰にも邪魔されず、心から安心できる「隠れ家」を確保すること。
  • 理由: 猫は本来、捕食者であると同時に、他の動物から狙われる存在でもあります。そのため、身を隠し、周囲を安全に観察できる場所があることは、ストレスを軽減する上で不可欠です。
  • 具体的な実践方法:
    • 段ボール箱を置く: 横向きに置くだけで、素晴らしい隠れ家になります。
    • キャリーケースを開放する: 普段から扉を開けて、中に毛布などを敷いておけば、「怖い場所」から「安心できる寝床」に変わります。
    • 高い場所を作る: 棚の上やキャットタワーの最上段など、部屋全体を見渡せる高い場所は猫にとって理想的な安全地帯です。そこに猫用ベッドを置いてあげましょう。
    • 猫が自分で選んだ場所を尊重する: 猫が好んで隠れているクローゼットの中やベッドの下などを、無理に片付けたりせず、むしろ快適な寝床として整えてあげましょう。

2. 重要な資源の分散配置

  • 目的: 食事、水、トイレなどの生活に不可欠な資源をめぐる、猫同士の無用な競争や緊張をなくすこと。
  • 理由: 猫にとって、食事場所とトイレ、水飲み場は全く別の意味を持つ場所です。これらが近すぎると、本能的なストレスを感じることがあります。また、多頭飼育の場合、資源が1ヶ所に集中していると、気の強い猫が独占してしまい、他の猫が我慢を強いられる原因になります。
  • 具体的な実践方法:
    • トイレの数: 「猫の数 + 1個」を家の別々の場所に設置するのが理想です。隣同士に置いても、猫は「1つの大きなトイレ」としか認識しません。
    • 水飲み場の増設: 家の複数箇所(リビング、寝室など)に水飲み場を設置し、いつでも新鮮な水が飲めるようにします。フードボウルのすぐ隣ではない方が良いでしょう。
    • 食事場所の工夫: 多頭飼育の場合は、それぞれの猫が落ち着いて食べられるように、少し離れた場所や、高さの違う場所(一方は床、もう一方はキャットタワーの中段など)で食事を与えましょう。

3. 遊びと捕食本能の発散

  • 目的: 室内飼いの猫が本来持っている「狩り」の本能を満たし、退屈によるストレスを解消すること。
  • 目的: 室内での生活は安全ですが、猫にとっては退屈で刺激が少ない環境になりがちです。満たされない狩猟本能は、ストレスや問題行動の原因になります。
  • 具体的な実践方法:
    • おもちゃを使った遊び: 猫じゃらしやレーザーポインター(※最後は必ずおやつなど実体のあるものを捕まえさせてあげてください)を使い、獲物のように動かして遊びます。1回5分〜10分程度で良いので、毎日時間を決めて遊んであげると、生活にメリハリが生まれます。
    • 知育トイ(フードパズル)の活用: おやつやフードを簡単には取り出せないおもちゃを与えることで、猫は頭と体を使って「獲物」を手に入れる達成感を味わえます。
    • 遊びの終わり方: 遊んだ後は、必ずおやつを与えたり食事の時間にしたりして、「狩りの成功」として締めくくってあげましょう。

4. ポジティブで一貫性のある人との関係

  • 目的: 猫が「この人は安全だ」と認識し、人との関わりがストレスではなく、安心できるものであると学習すること。
  • 理由: 猫は自分のペースを大切にする動物です。人間側の都合で無理に抱っこしたり、構いすぎたりすると、大きなストレスを感じます。猫が人との関わり方を自分でコントロールできる状況が、信頼関係を築く上で最も重要です。
  • 具体的な実践方法:
    • 猫から寄ってくるのを待つ: 撫でたり抱っこしたりするのは、猫が自分からすり寄ってきた時にしましょう。
    • 猫のボディランゲージを学ぶ: しっぽをパタパタさせていたら「少しイライラしている」、耳が横に倒れていたら(イカ耳)「不満や恐怖を感じている」サインです。そのような時は、そっとしておいてあげましょう。
    • 挨拶は「ゆっくりな瞬き」で: 猫の世界では、目をじっと見つめるのは威嚇のサインです。猫と目があったら、愛情を込めてゆっくりと瞬きを返してあげましょう。

5. 匂いを尊重した環境作り

  • 目的: 猫にとって最も重要な情報源である「匂い」の世界を大切にし、化学的な強い香りで猫を混乱させないこと。
  • 理由: 猫は、自分の匂い(フェロモン)を柱や家具にこすりつけることで、自分の縄張りをマーキングし、安心感を得ています。香りの強い芳香剤や消臭剤、香料付きの猫砂は、この大切な「匂いの地図」をかき消してしまい、猫を不安にさせます。
  • 具体的な実践方法:
    • 無香料の猫砂を選ぶ: 多くの猫は、香りのない、自然な砂に近いタイプの猫砂を好みます。
    • 芳香剤やアロマの使用を控える: 特に猫がよく過ごす部屋では、香りの強い製品の使用は避けましょう。
    • 掃除のしすぎに注意: 猫が使っている毛布などを洗濯する際は、一枚は洗い、一枚は匂いが残ったままにしておくなど、一度に全ての匂いを消してしまわない工夫も有効です。
② 栄養学的管理(食事療法と水分摂取)
  • 水分摂取の最大化: 尿石症とFICの両方において、尿を薄めることが最も重要な戦略です。目標は尿比重を1.030未満に維持することです。
    • ウェットフードへの切り替え: 食事から水分を摂取できるウェットフード(水分含有量70%以上)が最も効果的です。
    • 飲水環境の工夫: 水飲み場を複数設置する、器の素材を変える、流れる水が好きな子には給水器を試す、などの工夫をしましょう。
  • 療法食の活用:
    獣医師の指導のもと、尿路の健康維持やストレス管理を目的とした療法食が用いられます。これらには、精神的な落ち着きをサポートする成分(L-トリプトファン、加水分解ミルクプロテインなど)や、抗炎症作用のあるオメガ3脂肪酸などが含まれていることがあります。c/dやユリナリーシリーズだと後ろにCLTやマルチケアなどと書かれているものがそういった商品になります。
③ 薬物療法・サプリメント(環境改善で管理が難しい場合に)

ここで紹介する薬物療法やサプリメントは、あくまで多面的環境改善(MEMO)と食事療法を徹底しても、症状のコントロールが難しい場合に獣医師が検討する補助的な選択肢です。これらは自己判断で使用せず、必ず獣医師の診断と指導のもとで用いるようにしてください。


1. 抗うつ薬・抗不安薬
  • 目的: 慢性的な痛み、不安、そして膀胱の過敏性を和らげること。
  • なぜ「うつ」の薬?: これらの薬(三環系抗うつ薬のアミトリプチリンや、SSRIのフルオキセチンなど)は、脳内の神経伝達物質に作用します。FIC/パンドラ症候群は脳の「中心脅威応答システム」の異常が根底にあるため、脳に働きかけることで、不安を軽減するだけでなく、膀胱の痛みを感じにくくしたり(鎮痛作用)、神経が原因で起こる炎症を抑えたりする効果が期待されます。人の間質性膀胱炎の治療でも、難治性の痛みに対してアミトリプチリンが推奨されていることからも、その関連性がうかがえます。
  • 使用を検討するケース: MEMOを実践しても頻繁に再発を繰り返す場合や、明らかな不安行動(過剰なグルーミング、隠れて出てこないなど)が見られる重症例で検討されます。
  • 注意点: 効果が現れるまでに数週間かかることがあり、獣医師による慎重な容量調節が必要です。眠気や食欲の変化などの副作用が見られることもあります。
2. GAG(グリコサミノグリカン)製剤
  • 目的: 膀胱粘膜のバリア機能を補強すること。
  • GAGとは?: 健康な膀胱の内壁は、GAG(グリコサミノグリカン)という成分を含む粘液層で覆われています。この層は、尿に含まれる刺激物質から膀胱の細胞を守る「バリア」の役割をしています。
  • なぜサプリメントを?: FICの猫では、このGAG層が薄くなったり、損傷したりしていることが指摘されています。バリア機能が低下すると、尿の刺激が直接膀胱の知覚神経に伝わり、痛みや炎症を引き起こしやすくなります。N-アセチルグルコサミンなどのGAG成分をサプリメントとして補給することで、このバリア層の修復を助け、膀胱を内側から守ることを目指します。
  • 注意点: GAG製剤は医薬品ではなく、栄養補助食品(サプリメント)として位置づけられます。その効果については現在も研究が続けられていますが、副作用が少なく安全性が高いため、治療の補助として広く用いられています。
3. 合成フェロモン製剤
  • 目的: 猫の生活空間に「安心のサイン」を増やし、環境に対するストレスを軽減すること。
  • 猫の顔フェロモンとは?: 猫が柱や家具、あるいは飼い主さんの足に顔をスリスリとこすりつける時、頬から「フェイシャルフェロモン」という化学物質を出しています。これは猫にとって「ここは安全で安心できる場所だよ」というマーキングであり、猫自身の心を落ち着かせる効果があります。
  • どのように使うか?: このフェロモンを人工的に合成した製品(コンセントに差し込む拡散器タイプや、スプレータイプなど)を、猫がよく過ごす部屋で使うことで、空間全体に「ここは安全だよ」というメッセージを常に発信し続けることができます。これにより、環境の変化などに対する猫の不安感を和らげ、ストレスレベルを全体的に引き下げる効果が期待できます。これはMEMO(多面的環境改善)をさらに強化するための、非常に有効なツールの一つです。

予後について

尿道閉塞を起こさない限り、特発性膀胱炎が直接命に関わることは稀で、生命予後は一般的に良好です。

しかし、再発を繰り返すと猫自身とご家族のQOL(生活の質)が大きく損なわれます。治療のゴールは、再発の頻度と重症度をできるだけ抑え、猫ちゃんとご家族が穏やかに暮らせる時間を最大限に延ばすことです。そのための鍵が、ご紹介した多角的なアプローチの継続的な実践となります。

専門的なFAQ

ストレスが原因なら、精神安定剤のようなお薬だけで治りますか?
お薬はあくまで補助的な役割です。根本的な解決と再発予防には、猫が安心できる生活環境を整える「多面的環境改善(MEMO)」が最も重要になります。長期的な使用で症状がやわらいだという報告もありますがまだまだエビデンスが少ないのが現状です。
療法食は一度始めたら、一生続けないといけないのでしょうか?
尿石症の場合、再発予防のために生涯にわたる食事管理が推奨されることが多いです。特発性膀胱炎の場合は、ストレス管理に配慮した食事を続けることが有効な場合があります。ただし、猫ちゃんの状態によって方針は変わりますので、必ず獣医師の指示に従ってください。
水をたくさん飲ませるには、どうしたらいいですか?
ウェットフードに切り替えるのが最も効果的です。また、新鮮な水をいつでも飲めるよう、水飲み場を家の複数箇所に設置しましょう。陶器やガラスなど、器の素材を変えたり、流れる水が好きな子には給水器を試したりするのも良い方法です。

まとめ

猫の下部尿路疾患、特に特発性膀胱炎は、単なる膀胱の病気ではなく、その背景に「パンドラ症候群」という全身的なストレス反応が隠れていることがあります。

辛い症状を繰り返さないためには、薬や療法食だけに頼るのではなく、愛猫が日々を安心して過ごせる環境を整えてあげることが何よりも大切です。この記事でご紹介したチェックリストや環境改善(MEMO)が、愛猫の健康とご家族の安心な毎日に繋がれば幸いです。

少しでも気になるサインがあれば、一人で抱え込まず、かかりつけの動物病院に相談してください。

参考文献・引用元リスト
・[Westropp J.L, et al. Chronic lower urinary tract signs in cats. Vet Clin Small Anim Pract. 2019]
・[Buffington C.A.T. Pandora syndrome in cats. Today's Vet Pract. 2018]
・[Ellis S.L, et al. AAFP and ISFM feline environmental needs guidelines. J Feline Med Surg. 2013]
・[日本間質性膀胱炎研究会/日本泌尿器科学会. 間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン. 2019]

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犬の催吐処置まるわかりガイド|処置の流れ・費用・成功率https://selene-ah.com/vom/Sun, 12 Oct 2025 21:41:08 +0000https://selene-ah.com/?p=1641

【この記事でわかること】 【前半】愛犬の誤飲で悩む飼い主様へ 絶対にやめて!自己判断で吐かせることの危険性 愛犬が異物を飲み込んだ時、まず頭に浮かぶのが「吐かせる」ことかもしれません。しかし、ご家庭で無理に吐かせるのは絶 ... ]]>

飼い主
飼い主

先生、大変です!うちの子が何か食べちゃったかもしれないんです!」 「テーブルの上にあったはずのチョコレートが…床に落ちていた小さなおもちゃが…。もしかしたら…

獣医師
獣医師

お母さん、落ち着いてください。愛犬が何かを口にしてしまったかもしれない、そう気づいた瞬間、頭が真っ白になりますよね。そのお気持ち、とてもよく分かります。

飼い主
飼い主

どうしよう…今すぐ吐かせるべきですか?そもそも、すぐに病院に連れて行くべきなんでしょうか?

獣医師
獣医師

その不安、そして次から次へと湧いてくる疑問、一つひとつ解消していきましょう。この記事では、そんな緊急時に飼い主様が自信を持って行動できるよう、動物病院で行う『催吐処置(さいとしょち)』について、分かりやすくお話ししますね。

【この記事でわかること】

  • なぜ、自己判断で吐かせてはいけないのか?
  • 動物病院は、なぜ「注射」で吐かせることを選ぶのか?
  • 処置の具体的な流れと、かかる時間
  • 処置後のケアと注意点
  • 来院前に、飼い主様ができること・準備すること

【前半】愛犬の誤飲で悩む飼い主様へ

絶対にやめて!自己判断で吐かせることの危険性

愛犬が異物を飲み込んだ時、まず頭に浮かぶのが「吐かせる」ことかもしれません。しかし、ご家庭で無理に吐かせるのは絶対にやめてください。

インターネット上には「塩やオキシドールを飲ませる」といった情報もありますが、これらは極めて危険です。

  • 食塩中毒: 大量の塩分は、犬にとって命に関わる「食塩中毒」を引き起こす可能性があります。
  • 消化管へのダメージ: オキシドールは胃の粘膜を激しく傷つけ、ひどい胃炎や潰瘍の原因になります。
  • 誤嚥性肺炎: 吐いたものが気管に入ってしまい、重篤な肺炎(誤嚥性肺炎)を起こす危険があります。

何を飲み込んだかによっても、吐かせることが逆効果になるケース(鋭利なもの、腐食性のものなど)もあります。正しい知識を持った獣医師の判断に任せることが、愛犬を守るための最善の選択です。

来院前に落ち着いて!緊急アクションリスト

パニックになる気持ちをぐっとこらえ、まずは以下のリストを確認し、動物病院へ電話をしてください。

落ち着いて、まずは3つの確認を!

  • [ ] いま、愛犬の意識はハッキリしていますか? (ぐったりしていないか、痙攣はないか)
  • [ ] 何を、いつ頃、どのくらい飲み込みましたか? (製品のパッケージや残りがあれば持参)

すぐに動物病院へ電話!伝えるべきことリスト

  • [ ] 犬種と、おおよその体重
  • [ ] 誤飲したものの名前と量(わかれば)
  • [ ] 誤飲してからの経過時間
  • [ ] 現在の愛犬の様子

なぜ動物病院は「注射」を選ぶのか?

当院の催吐処置では、主に「アポモルヒネ」という薬を注射します。その理由は、緊急時に最も「迅速」で「確実」だからです。

アポモルヒネ CTZ

アポモルヒネは、脳にある“嘔吐スイッチ”を安全にONにするお薬です。新しい点眼薬も作用の仕組みは同じですが、緊急時、特に興奮したり不安がったりしているワンちゃんに確実に点眼するよりも、一瞬で終わる筋肉注射の方が、圧倒的に早く、確実に薬を投与できるのです。

獣医師の視点:筋肉注射を選ぶ、もう一つの理由

緊急時で興奮しているワンちゃんの場合、じっとしていてもらう必要がある血管への注射(静脈注射)は、かえって負担になることがあります。その点、お尻や太ももの筋肉にする注射(筋肉注射)は一瞬で終わるため、ワンちゃんのストレスも最小限に抑えられます。「1秒でも早く、少しでも負担なく」を考えた結果が、筋肉注射という選択なのです。

【前半のまとめ】迷ったら、まずはお電話を

ここまで読んで、「うちの子はすぐに病院へ行くべきだ」と判断された方は、もうこの先を読む必要はありません。今すぐお近くの動物病院へ電話してください。

もし、もう少し詳しく専門的な話を知っておきたい、という飼い主様のために、この記事の後半では、催吐処置に使われるお薬の詳しい仕組みや、もし治療しなかった場合のリスクなど、一歩踏み込んだ解説をしていきます。


【後半】より詳しく知りたい方へ

専門解説:脳の“嘔吐スイッチ”「CTZ」とは

私たちの脳には、「化学受容器引金帯(Chemoreceptor Trigger Zone)」、通称CTZと呼ばれる部分があります。これが先ほどから説明している「嘔吐スイッチ」の正体です。

CTZは、血液中の毒物や薬物を感知すると、嘔吐中枢を刺激して吐き気を起こさせます。催吐薬である「アポモルヒネ」は、このCTZにあるドパミン受容体という部分に直接作用し、スイッチをONにすることで、安全かつ効果的に嘔吐を誘発するのです。

もし、胃の中に異物が残り続けたら?

催吐処置を行わず、異物や毒物が胃の中に残り続けると、様々なリスクが発生します。

  • 腸閉塞: 胃の中では問題なくても、腸に流れて詰まってしまうことがあります。これが「腸閉塞」で、激しい嘔吐や腹痛を引き起こし、緊急手術が必要になるケースも少なくありません。
  • 中毒症状: チョコレートや玉ねぎ、人間の薬などの場合、成分が体内に吸収されてしまうと、肝臓や腎臓、神経などに深刻なダメージを与え、命に関わる事態に発展する可能性があります。

だからこそ、胃の中にあり、かつ安全に排出できるうちに、催吐処置を行うことが極めて重要なのです。

催吐処置の具体的な流れ

問診と診察

まずは飼い主様から「何を・いつ・どのくらい」誤飲した可能性があるのか、詳しくお話を伺います。同時に、ワンちゃんの意識状態や呼吸の様子など、全身状態を迅速にチェックします。

処置内容のご説明

診察結果に基づき、これから行う催吐処置の必要性、具体的な方法、期待できる効果、そして費用について丁寧にご説明し、飼い主様の同意を得てから処置を開始します。

催吐薬の注射

ワンちゃんが怖がらないように優しく保定し、お尻や太ももの筋肉にアポモルヒネを注射します。チクッとするのは一瞬です。

嘔吐と異物の確認

通常、注射後5〜15分ほどで嘔吐が始まります。吐き出したものの中に、目的の異物が含まれているかをスタッフが丁寧に確認します。

処置後のケア

無事に異物を回収できた後、薬の影響で続く吐き気を抑えるため、吐き気止め(制吐薬)の注射をします。必要に応じて、脱水を予防する点滴や、毒素を吸着する活性炭の投与なども行います。

ご帰宅

ワンちゃんの状態が完全に落ち着き、ふらつきなどがないことを確認したら、ご帰宅いただけます。お家での過ごし方や注意点などをお伝えします。

催吐処置に伴うリスクと、その対策

催吐処置は一般的に安全な処置ですが、どのような医療行為にも100%はありません。当院では、考えられるリスクを最小限に抑えるため、細心の注意を払って処置を行っています。

1. 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

処置に伴う最も注意すべき合併症です。吐いたものが誤って気管や肺に入ってしまうことで起こる肺炎で、重症化すると命に関わることもあります。

  • 当院での対策: 意識レベルが低下している子や、短頭種(フレンチ・ブルドッグやパグなど)のように解剖学的にリスクが高い子の場合は、特に慎重に実施の可否を判断します。処置中も、獣医師・動物看護師が呼吸状態を常に監視し、万が一の事態に備えます。

2. 薬剤による副作用

催吐に使用するアポモルヒネは、安全性の高い薬ですが、まれに処置後も軽度の鎮静(ぼーっとする)や、嘔吐が続くことがあります。

  • 当院での対策: 処置後は、吐き気止めの注射(制吐薬)を投与し、ワンちゃんの不快感が続かないようにケアします。

3. 異物の回収漏れ

一度の催吐処置で、飲み込んだ異物のすべてを回収しきれない可能性もゼロではありません。

  • 当院での対策: 吐き出した内容物はすべて丁寧に確認します。もし異物の一部が胃の中に残っている可能性が疑われる場合は、レントゲン検査などを追加でご提案し、完全な回収を目指します。

これらのリスクを飼い主様と共有し、ワンちゃんにとって最善の選択ができるよう、常に努めています。ご不安な点は、処置の前に遠慮なくご質問ください。

【専門的FAQ】診察でよく聞かれる質問

催吐処置の成功率はどれくらいですか?
ワンちゃんの催吐処置は成功率が非常に高く、90%以上と報告されています。ただし、誤飲したものや個体差によって成功率は変動しますので、まずは一度ご相談ください。
処置にかかる費用は、だいたいいくらくらいですか?
当院の場合、催吐処置自体の費用は6,000円です。
その他、状態に応じて脱水を防ぐための皮下点滴(1,000円〜2,000円程度 ※体格によります)や、毒素を吸着させるための活性炭(吸着炭)の内服薬(600円程度)を追加することがあります。総額としては、おおよそ7,000円〜9,000円程度が目安となります。正確な費用は、ワンちゃんの状態を確認した上でご説明します。
吐かせた後も、何度も吐き続けています。大丈夫でしょうか?
催吐処置の後は、薬の影響で嘔吐が続くことがあります。そのため、当院では通常、処置後に吐き気止めの注射(制吐薬)を投与して、ワンちゃんの不快感が続かないようにケアしています。もしご帰宅後に嘔吐が止まらない場合は、すぐにご連絡ください。
他の催吐薬(トラネキサム酸など)は使わないのですか?
トラネキサム酸なども催吐作用が報告されていますが、副作用として痙攣などが起こるリスクも指摘されています。様々な選択肢を検討した結果、当院では最も作用が確実で、万が一の際に拮抗薬(作用を打ち消す薬)も存在するアポモルヒネを第一選択としています。

まとめ:愛犬の「もしも」のために

愛犬の誤飲は、どんなに気をつけていても起きてしまう可能性がある事故です。大切なのは、万が一の時に飼い主様がパニックにならず、正しい行動をとること。この記事が、そのための「お守り」のような存在になれば幸いです。

不安な時は、決して一人で抱え込まず、いつでも私たち獣医師にご相談ください。

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犬と猫で原因が違う!ストルバイト結石の症状・治療・再発させないための食事管理https://selene-ah.com/struvite/Wed, 08 Oct 2025 12:38:40 +0000https://selene-ah.com/?p=1614

【この記事でわかること】 目次 【前半】愛犬・愛猫の尿トラブルで悩む飼い主様へ そもそも「ストルバイト結石」って何? 【重要】犬と猫では、できる原因が全く違います 【動物病院へ行く前に】獣医師に伝えたいことチェックリスト ... ]]>

飼い主
飼い主

先生、うちの子の尿にキラキラした結晶が混じっていて…『ストルバイト』だって言われたんです。これって、手術しないと治らないんでしょうか?

獣医師
獣医師

そうですよね、ワンちゃん・ネコちゃんが『尿石症』と診断されたら、ご心配になるのは当然のことですよ。特に『ストルバイト結石』は、ワンちゃん・ネコちゃん両方で最も多く見られる結石ですから、同じように悩まれる飼い主様はとても多いんです。

獣医師
獣医師

でも、どうぞご安心ください。ストルバイト結石は、手術をしなくても食事療法で溶かせる可能性が高い病気なんです。

飼い主
飼い主

本当ですか!?食事で…!少し安心しました。でも、どうしてうちの子がこんな病気になってしまったんでしょうか…?

獣医師
獣医師

そこが一番気になるところですよね。実はこのストルバイト結石、ワンちゃんとネコちゃんではできる原因が少し違います。この記事では、飼い主様のその不安が安心に変わるように、ストルバイト結石の全てを、これから一つひとつ丁寧にご説明していきますね。


【この記事でわかること】

  • ストルバイト結石とは何か?症状と原因
  • 【重要】犬と猫で全く違う!それぞれの発症メカニズム
  • 本当に食事で溶かせる?「溶解療法」の具体的な期間と流れ
  • もう繰り返さない!再発予防のための食事と生活のポイント
  • 診察でよく聞かれる質問(Q&A)

【前半】愛犬・愛猫の尿トラブルで悩む飼い主様へ

そもそも「ストルバイト結石」って何?

ストルバイト結石とは、尿の中に含まれる「マグネシウム」「アンモニウム」「リン酸」という3つのミネラル成分が結晶化し、石のように固まったものです。正式には「リン酸アンモニウムマグネシウム結石」と呼ばれます。

この結石が膀胱や尿道を傷つけることで、以下のような辛い症状を引き起こします。

  • 頻尿:何度もトイレに行くが、少ししか尿が出ない
  • 血尿:尿がピンク色や赤色になる
  • 排尿困難:排尿時に痛がって鳴いたり、力んだりする
  • 不適切な場所での排尿(粗相):トイレ以外の場所でしてしまう
  • 落ち着きがなくなる、元気・食欲の低下

特に、雄(オス)の犬や猫では、結石が尿道に詰まってしまう「尿道閉塞」を起こす危険があります。尿が全く出せない状態は、急性腎不全などを引き起こし、2〜3日で命を落とす可能性のある極めて危険な状態です。ぐったりしている、お腹を痛がる、嘔吐するなどの症状が見られたら、時間外であってもすぐに動物病院を受診してください。

【重要】犬と猫では、できる原因が全く違います

ストルバイト結石ができる根本的な原因は、犬と猫で大きく異なります。この違いを理解することが、適切な治療と予防への第一歩です。

犬の場合:ほとんどが「尿路感染症」が原因

犬のストルバイト結石の多くは、ブドウ球菌などの「ウレアーゼ産生菌」という細菌が尿路に感染することから始まります。この細菌が持つ「ウレアーゼ」という酵素が、尿素をアンモニアに分解することで尿がアルカリ性に傾き、ストルバイト結石が形成されやすくなるのです。そのため、犬の治療では食事療法と同時に、原因菌を叩くための抗菌薬治療が不可欠となります。

猫の場合:多くは「食事や体質」が原因(無菌性)

一方、猫のストルバイト結石の多くは細菌感染を伴わない「無菌性」です。主な原因は、フードに含まれるミネラル(マグネシウムやリン)のバランスや、体質、飲水量の不足などによって尿がアルカリ性に傾くことです。特に、雄猫の尿道閉塞の原因となる尿道栓子(プラグ)の実に95%がストルバイトであるというデータもあり、猫にとって非常に身近な病気と言えます。


【獣医師の視点①】「尿に結晶がある」≠「尿石症」です

健康診断の尿検査で「ストルバイト結晶が出ていますね」と言われたけれど、症状はないし、うちの子は大丈夫?というご相談をよく受けます。重要なのは、健康な犬や猫でも尿中にストルバイト結晶が見られることは珍しくない、ということです。結晶があるからといって、必ずしも結石(石)ができるわけではありません。

しかし、結晶尿は結石ができるリスクが高い状態(尿がミネラルで過飽和である証拠)とも言えます。症状がなくても、結晶の種類や量、尿pHなどによっては、将来の尿石症を予防するための食事管理をお勧めすることがあります。

【動物病院へ行く前に】獣医師に伝えたいことチェックリスト

的確な診断のために、以下の情報を整理して獣医師に伝えましょう。慌てていても、これを見れば大丈夫です。

□ いつから症状がありますか?
(例:昨日から、1週間前から)

□ どんな症状がありますか?(複数回答可)

  • [ ] 何度もトイレに行く(頻尿)
  • [ ] トイレにいる時間が長い(排尿困難)
  • [ ] 尿が赤い、ピンク色(血尿)
  • [ ] トイレ以外の場所で粗相をしてしまう
  • [ ] 落ち着きがなく、鳴いている

□ 尿は出ていますか?

  • [ ] 少しは出ている
  • [ ] 全く出ていない(→緊急事態です!すぐに病院へ!)

□ 今与えているフードの種類は?
(商品名、ドライかウェットか)

□ おやつやサプリメントは与えていますか?
(種類、頻度)

□ 飲水量は普段と比べてどうですか?
(増えた、減った、変わらない)

□ 過去に尿のトラブルはありましたか?
(診断名、時期)

【前半のまとめ】まずは落ち着いて、動物病院へ相談を

ここまで、ストルバイト結石の基本的な情報と、ご家庭でできる準備について解説しました。最も大切なポイントは、ストルバイト結石は内科的に溶かせる可能性が高いということです。

ただし、自己判断は禁物です。特に、尿が全く出ていない、ぐったりしているといった症状は尿道閉塞の可能性があり、命に関わる緊急事態です。すぐに夜間救急病院などを受診してください。

症状が比較的落ち着いている場合でも、まずはかかりつけの動物病院で正確な診断を受けることが治療の第一歩です。


【後半】より詳しく知りたい方へ

「なぜ犬には抗菌薬が必要なの?」「溶解には具体的に何日くらいかかるの?」
ここからの後半パートでは、一歩踏み込んで、ストルバイト結石のより専門的な病態生理や治療の選択肢、よくある質問について詳しく解説していきます。

診断と治療の選択肢

ストルバイト結石は、X線検査で白く写りやすい(X線不透過性)ため、レントゲン検査や超音波検査で診断されることが一般的です。治療法は、主に「内科的溶解療法」と「外科的摘出術」の2つに大別されます。

治療法メリットデメリット/注意点
内科的溶解療法(食事療法+薬)・手術が不要で、体への負担が少ない。
・麻酔のリスクを避けられる。
・溶解までに時間がかかる(犬で最大3ヶ月、猫で平均6日〜141日)。
・治療期間中は療法食以外の食事は厳禁。
・犬の場合、原因となる尿路感染症の治療(抗菌薬投与)が必須。
・シュウ酸カルシウムなど他の成分が混ざっていると溶けないことがある。
・溶解途中の小さな結石が尿道に詰まるリスクがゼロではない。
外科的摘出術(膀胱切開など)・結石を物理的にすぐに取り除ける。
・閉塞のリスクを迅速に解消できる。
・摘出した結石の成分を正確に分析できる。
・全身麻酔と手術に伴う身体的負担がある。
・術後の痛みや合併症のリスク。
・小さな結石の取り残しが起こることがある。
・費用が比較的高額になる傾向。

獣医師は、結石の大きさや数、動物の全身状態、尿道閉塞のリスクなどを総合的に判断し、飼い主様と相談しながら最適な治療法を選択します。

【詳説】ストルバイト結石の内科的溶解療法

ストルバイト結石は、シュウ酸カルシウム結石とは異なり、適切な治療計画に従うことで内科的に溶解することが可能であり、これが治療戦略の重要な柱となります。この治療法の目的は、尿を「結石が溶ける状態」に変え、維持することにあります。

溶解療法を成功させるための主要な要素は以下の4つです。

1. 尿pHの低下(酸性化)

ストルバイトはアルカリ性の尿で形成されやすい性質があります。そのため、溶解療法の鍵は尿を酸性に傾け、結石の溶解性を高めることです。

  • 目標pH: 結石を溶かすために推奨される尿pHは5.8〜6.2の範囲です。
  • 仕組み: 尿が酸性になると、ストルバイトの成分であるリン酸イオンが水に溶けやすい形に変化します。これにより、結石が非常に溶けやすい環境が作られます。

2. マグネシウム・リンの制限

ストルバイト溶解用の療法食は、結石の材料となるマグネシウム(Mg)やリン(P)といった前駆物質の尿中への排泄を制限するように設計されています。

  • 制限の重要性: 尿中のマグネシウム濃度を低下させることは、ストルバイト結石の溶解を誘発する鍵の一つです。
  • 猫の溶解食の推奨値: 療法食に含まれるマグネシウムは乾物量で0.04%〜0.09%、リンは0.45%〜1.1%に調整されています。

3. 尿量の増加(尿の希釈)

尿の量を増やして薄めることで、結石成分の濃度を下げ、結石ができにくく、溶けやすい環境を作ります。

  • 方法: 水分含有量の多いウェットフードの給与が推奨されます。また、飲水量を増やすために、療法食にはナトリウム(塩分)が調整されていることがあります。
  • 目標尿比重: 尿の濃さの指標である尿比重(USG)を、猫では1.030未満、犬では1.020未満に維持することが目標です。

4. 抗菌薬(犬の場合に特に重要)

ストルバイト結石の形成原因は、イヌとネコで大きく異なります。

  • 犬の場合(感染誘発性):
    前述の通り、犬のストルバイト結石のほとんどは尿路感染症が原因です。そのため、食事療法に加えて、尿の細菌培養検査と感受性試験に基づいた適切な抗菌薬の投与が不可欠です。感染を治療しなければ、食事療法単独では結石は溶解しません。何度も感染を繰り返したり、治りにくい場合はもしかすると細菌感染がおこりやすくなる原因(クッシング症候群や陰部周囲の汚れ、重度の歯石など)が隠れているのかもしれません。
  • 猫の場合(無菌性が多い):
    猫のストルバイト結石は多くが無菌性であり、食事管理が中心となります。しかし、猫でもまれに尿路感染症が併発することがあり、その場合は抗生物質が必要です。

溶解期間と再評価

溶解療法は時間がかかるため、定期的なモニタリングが欠かせません。

  • 期間: 結石の溶解にかかる期間は幅広く、猫では平均6日〜141日(数週間〜最大5ヶ月)かかることがあります。犬では最大3ヶ月かかることがあります。
  • 再評価: 治療開始後、2〜4週間ごとに腹部X線検査で結石のサイズと数の変化を評価します。溶解が期待通りに進まない場合、結石組成がストルバイトではない(例:シュウ酸カルシウムとの混合)、または飼い主が食事指導を守っていない可能性が考えられます。
  • 治療の継続: X線検査で結石が完全に消失したことが確認された後も、目に見えない微小な結石を完全に溶かし、再発を防ぐために、さらに1ヶ月程度は溶解用の療法食を続けることが推奨されます。

また、一方で行き過ぎたストルバイト結石への対応はシュウ酸カルシウム結石の形成を促進してしまうため、バランスをとって治療をすることが重要です。そのためにも定期的なモニタリングは欠かせません。

「もしストルバイト結石を治療せずに放置したら?」

症状が落ち着いたからといって治療を中断したり、放置したりすると、様々なリスクがあります。

  • 結石の成長と増加: 尿石は時間とともに大きく、そして数が増える可能性があります。大きくなるほど溶解に時間がかかり、治療が困難になります。
  • 持続的な膀胱炎: 結石が膀胱の粘膜を傷つけ続けることで、慢性的な炎症が起こり、血尿や頻尿といった症状が続きます。動物は常に不快感を抱えることになります。
  • 難治性の尿路感染症: 結石の表面は細菌の隠れ家となり、抗菌薬が効きにくい状態になります。再発性の尿路感染症の原因となることがあります。
  • 【最も危険】尿道閉塞: 特に雄の犬や猫で、小さな結石が尿道に詰まってしまうと、尿が全く出せなくなります。これは急性腎不全や尿毒症を引き起こし、治療が遅れると2〜3日で命を落とす可能性のある、極めて危険な状態です。

【獣医師の視点②】再発予防こそが本当のゴールです

溶解療法や手術で結石が無くなった後、「もう治ったから普通のフードに戻してもいいですか?」とご質問いただくことがあります。しかし、一度ストルバイト結石ができた体質は、生活習慣を変えなければ再発する可能性が高いのです。

特に犬では、再発性尿路感染症のコントロールが何より重要です。猫では、尿を適切なpHに保ち、ミネラルバランスを調整した予防食を続けることが推奨されます。治療の本当のゴールは「結石を無くすこと」ではなく、「結石を“再発させない”こと」。そのために、定期的な尿検査でしっかり状態をモニタリングしていきましょう。

【獣医師が答える】ストルバイト結石のよくあるご質問

Q1. なぜ犬の治療には抗菌薬が必要で、猫には不要なことが多いのですか?
A1. それは、犬と猫でストルバイト結石ができる根本的な原因が違うからです。犬のストルバイト結石のほとんどは、ウレアーゼという酵素を作る細菌の尿路感染症が原因で発生します。そのため、この原因菌を退治しない限り、いくら食事を変えても結石は溶けません。一方、猫のストルバイト結石の多くは、細菌感染を伴わない「無菌性」であり、主に食事内容や体質が原因で発生するため、食事療法が治療の中心となります。

Q2. 療法食をなかなか食べてくれません。どうすればいいですか?
A2. 多くの飼い主様が悩まれる点です。まずは、同じ療法食のウェットフードを試したり、少し温めて香りを立たせたりする方法があります。ドライフードにお湯を加えてふやかすのも良いでしょう。それでも食べない場合は、他のメーカーのストルバイト用療法食を試すことも選択肢です。かかりつけの獣医師に相談し、その子に合った方法を見つけていきましょう。治療の成功には療法食を続けることが不可欠ですので、諦めずに試すことが大切です。

Q3. 治療中、おやつは絶対にあげてはダメですか?
A3. 溶解療法を成功させるためには、療法食以外の食べ物は原則として与えないのが理想です。おやつによっては尿のpHをアルカリ性に戻してしまい、治療効果を妨げる可能性があるからです。どうしても与えたい場合は、必ずかかりつけの獣医師に相談し、与えても良いおやつの種類や量を確認してください。

Q4. 結石が溶けるまで、どのくらいの期間がかかりますか?
A4. 結石の大きさや数、また犬か猫かによって大きく異なります。猫の無菌性ストルバイトの場合、平均すると数週間で溶けることが多いですが、長い場合は数ヶ月かかることもあります(ある研究では平均36日、範囲は14〜141日でした)。犬の感染性ストルバイトの場合は、感染のコントロールも必要なため、最大で3ヶ月ほどかかることもあります。治療中は2〜4週間ごとにレントゲン検査などで結石の大きさを確認し、治療計画を見直していきます。


まとめ:正しい知識で、愛犬・愛猫の健康を守りましょう

ストルバイト結石は、犬と猫で非常に多く見られる病気ですが、その原因は大きく異なります。そして、食事療法を中心とした内科治療で溶かすことが期待できる病気でもあります。

最も重要なのは、飼い主様が正しい知識を持ち、獣医師と協力して根気強く治療と予防に取り組むことです。血尿や頻尿など、気になるサインが見られたら、決して自己判断せず、まずは動物病院に相談してください。この記事が、不安を抱える飼い主様にとって、一歩を踏み出すための助けとなれば幸いです。

参考文献・引用元リスト

  • 「2023 Global Urolith Data」Minnesota Urolith Center
  • 「小動物の臨床栄養学 第5版」
  • 「イヌとネコの腎泌尿器病学」
  • 「Ettinger's Textbook of Veterinary Internal Medicine」
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愛犬がシスチン結石と診断されたら|原因・症状から治療法、去勢の必要性まで詳しく解説https://selene-ah.com/cystine/Wed, 08 Oct 2025 11:30:48 +0000https://selene-ah.com/?p=1606

【この記事でわかること】 獣医師の視点:飼い主様が抱えがちな「最初の誤解」 診察室で「最近、トイレの回数は多いけど、元気はあるから大丈夫だと思っていました」というお話をよく伺います。しかし、犬は不調を隠すのが得意な動物。 ... ]]>

飼い主
飼い主

先生、『シスチン結石』と診断されました…。遺伝的な病気なので、生涯付き合っていく必要があると聞いて、頭が真っ白です。これから、うちの子はどうなってしまうんでしょうか…?

獣医師
獣医師

そう告げられて、とてもご不安ですよね。専門的な言葉ですし、『遺伝』や『生涯の管理』と聞くと、戸惑ってしまうお気持ちはよく分かります。でも、まずは安心してください。シスチン結石は、正しい知識を持って適切に管理すれば、再発をコントロールし、健やかな毎日を送ることができる病気です。


【この記事でわかること】

・なぜ?愛犬がシスチン結石になった根本的な原因

・手術は必要?食事療法や薬で治せるの?具体的な治療法の選択肢

・再発を防ぐ一番の要!療法食の選び方と食事管理のポイント

・男の子の未去勢犬に多いのはなぜ?去勢手術の必要性

・今すぐできる!獣医師に伝えるべき症状チェックリスト


獣医師の視点:飼い主様が抱えがちな「最初の誤解」

診察室で「最近、トイレの回数は多いけど、元気はあるから大丈夫だと思っていました」というお話をよく伺います。しかし、犬は不調を隠すのが得意な動物。頻尿や血尿は、彼らが発する重要なサインなのです。少しの変化も見逃さず、早めに相談いただくことが、愛犬を苦しませないための第一歩です。


【前半】まずは知ってほしい、シスチン結石の基本

このパートでは、難しい専門用語を避け、シスチン結石とは何か、そして飼い主として今すぐ何をすべきかを分かりやすく解説します。

そもそも「シスチン結石」ってどんな病気?

犬の尿石症(尿路に石ができてしまう病気)のうち、約7%を占めるのがこのシスチン結石です。

簡単に言うと、体質的に「シスチン」というアミノ酸の一種が尿の中に過剰に排泄されてしまうことで、それが溶けきれずに結晶となり、固まって石(結石)になってしまう病気です。

この結晶は、顕微鏡で見ると特徴的な六角形をしているのが目印です。

6角形のシスチン結晶のイメージ画像

どんな症状がでるの?

シスチン結石が膀胱や尿道を刺激することで、以下のような膀胱炎に似た症状が見られます。

  • 頻尿(何度もトイレに行く)
  • 血尿(おしっこが赤い、ピンク色)
  • 排尿困難(おしっこが出にくい、ポタポタとしか出ない)
  • 排尿時痛(おしっこをするときに鳴く、痛がる)
  • トイレ以外の場所での粗相

特に注意が必要なのは、結石が尿道に詰まってしまう「尿道閉塞」です。おしっこが全く出ない状態が続くと、急性腎障害や尿毒症を引き起こし、命に関わります。

もし、愛犬がおしっこをしようとしているのに全く出ていない場合は、時間外であってもすぐに動物病院に連絡してください。

【実践】動物病院に行く前に・行ってから

不安で混乱している時こそ、落ち着いて状況を整理することが大切です。以下のチェックリストをご活用ください。

お家でできる症状チェックリスト

チェックリスト

・おしっこの回数がいつもより多い、または少ない

・トイレに何度も行くが、少ししか出ていない

・おしっこをする時に痛そうに鳴く、いきんでいる

・おしっこの色がいつもと違う(赤い、ピンク色、キラキラして見える)

・トイレ以外の場所で粗相をしてしまう

・元気がなく、食欲もない

獣医師に伝えよう!問診で役立つ情報メモ

  • いつから?:上記の症状がいつから始まったか
  • 食事内容:普段食べているフード、おやつの種類と量
  • 飲水量:最近、水を飲む量に変化はあったか
  • 過去の病歴:これまでに尿路系の病気をしたことがあるか

【前半のまとめ】まずは落ち着いて、獣医師に相談を

ここまで、シスチン結石の基本的な症状や、飼い主さんにできることを解説しました。最も大切なのは、自己判断で様子を見ず、必ず動物病院を受診することです。特に、おしっこが全く出ていない場合は、命に関わる緊急事態です。すぐに夜間救急病院などに連絡してください。

「もっと専門的な話も知っておきたい」「治療法の詳しいメリット・デメリットが聞きたい」

そう思われた方は、ぜひこの先の【後半】パートも読み進めてください。病気の仕組みや専門的な治療について、さらに詳しく解説していきます。


【後半】より詳しく知りたい方へ

ここからは、シスチン結石の原因や治療法について、一歩踏み込んだ専門的な内容を解説します。

原因と病態生理:なぜ石ができてしまうのか?

シスチン結石の根本原因は、「シスチン尿症」という遺伝性疾患です。

私たちの体は、腎臓で血液をろ過して尿を作ります。その際、体に必要なアミノ酸などは「再吸収」という形で血液中に回収されます。
しかし、シスチン尿症の犬は、この再吸収機能に生まれつき異常があります。具体的には、アミノ酸の再吸収を担う輸送体の設計図となる遺伝子(SLC3A1SLC7A9)に変異があるため、シスチンというアミノ酸をうまく回収できず、尿の中へ大量に漏れ出てしまうのです。

シスチンは非常に水に溶けにくい性質を持っているため、尿中の濃度が高くなると結晶化し、やがて結石へと成長します。

なぜ未去勢の男の子に多いの?

シスチン尿症にはいくつかのタイプがあり、その中には雄性ホルモン(アンドロゲン)の影響で悪化する「アンドロゲン依存性」のタイプが存在します。そのため、特に未去勢の雄犬で発生が多く見られます。このタイプの結石は、去勢手術を行うことで劇的に改善する可能性があります。

診断と治療の選択肢

診断は、尿検査での特徴的な六角形の結晶の確認、画像検査(レントゲンでは写りにくいため、超音波検査が中心)、そして結石そのものの分析によって確定します。

治療法は、結石の大きさや場所、尿道閉塞の有無によって、以下の選択肢を組み合わせて行います。

治療法メリットデメリットこんな子におすすめ
食事療法(療法食)体への負担が少なく、根本的な再発予防になる効果が出るまで時間がかかる、食べてくれない場合がある閉塞がなく、体力がある子、結石が小さい場合
外科手術確実かつ迅速に結石を摘出できる麻酔リスク、身体的負担、費用がかかる、再発予防にはならない尿路閉塞を起こしている、結石が大きい、内科療法に反応しない
薬物療法(チオプロニン等)食事療法と併用で溶解効果を高める副作用のリスク(肝機能障害など)、定期的なモニタリングが必要食事療法だけではコントロールが難しい場合
去勢手術アンドロゲン依存性の場合、根本的な原因の一つを解消できる外科的処置であり、麻酔リスクがある未去勢の雄で、アンドロゲン依存性が疑われる場合

各治療法の詳細

食事療法(療法食)

シスチン結石の治療と再発予防において、食事管理は最も重要で基本的なアプローチです。シスチンは体内で作られるアミノ酸ですが、その原料となる動物性タンパク質を制限することで、尿中のシスチン濃度を下げることができます。尿がアルカリ性になることでシスチン結石は溶けやすくなるため、クエン酸カリウムが添加されています。

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ロイヤルカナン 腎臓サポート
外科手術

すでに形成された結石が大きく、内科療法では溶解が難しい場合や、尿道閉塞を起こして緊急性が高い場合には、外科手術によって結石を摘出します。特に、尿道閉塞は放置すると命に関わるため、迅速な対応が必要です。 ただし、外科手術で結石を取り除いても、シスチン尿症という体質が改善されるわけではないため、再発予防のための食事療法やその他の管理は継続して行う必要があります。

薬物療法(チオプロニンなど)

食事療法だけでは結石の溶解や再発予防が不十分な場合、薬物療法が併用されることがあります。

  • チオプロニン(Tiopronin):シスチンと結合し、シスチンよりも水に溶けやすい化合物を形成することで、尿中のシスチンの溶解度を高め、結石の形成を阻害します。ただし、肝機能障害などの副作用のリスクがあるため、定期的な血液検査によるモニタリングが必要です。
  • クエン酸カリウムなど:尿をアルカリ化する目的で、食事療法と併用されることがあります。
去勢手術

前述の通り、シスチン尿症には雄性ホルモン(アンドロゲン)の影響を受けるタイプが存在します。このタイプの場合、去勢手術を行うことでアンドロゲンレベルが低下し、尿中のシスチン排泄量が顕著に減少することが報告されています。去勢後2〜4ヶ月以内に尿中のシスチン/クレアチニン比が正常値に戻る可能性もあり、非常に効果的な再発予防策となります。麻酔のリスクなどを考慮しつつ、獣医師と十分に相談して検討しましょう。

【重要】もし、シスチン結石を治療せずに放置してしまったら?

「症状が落ち着いたから」「療法食は高いから」といった理由で治療を中断してしまうと、非常に危険な状態に陥る可能性があります。

  • 尿道閉塞: 小さな結石が尿道を完全に塞いでしまうと、おしっこが全く出なくなります。これは急性腎障害を引き起こし、体内に毒素が溜まる尿毒症に進行します。閉塞から48時間以上が経過すると、命を落とす危険性が非常に高くなります。
  • 繰り返す膀胱炎: 結石が膀胱の粘膜を傷つけ続けることで、細菌感染を伴う膀胱炎を繰り返し、常に血尿や頻尿などの辛い症状に悩まされることになります。
  • 腎機能の低下: 尿路の圧力が高い状態や、慢性的な感染が続くと、腎臓そのものにダメージが蓄積し、将来的に慢性腎臓病に移行するリスクが高まります。

シスチン結石の管理は、単に石をなくすだけでなく、愛犬の将来のQOL(生活の質)と寿命を守るために不可欠なのです。


よくあるご相談:「おやつは絶対ダメなんですか?」

「療法食だけなんて可哀想…」というお気持ち、とてもよく分かります。おやつの全面禁止は、かえって飼い主様のストレスになり、治療の継続を難しくすることもあります。原則は療法食ですが、与えても良いおやつ(タンパク質やナトリウムが少ないものなど)もあります。必ず、事前に獣医師に相談し、量を守って与えるようにしましょう。


専門的なFAQコーナー

Q1. 療法食を全く食べてくれません。どうすればいいですか?
A1. まずは、ぬるま湯でふやかして香りを立たせたり、少量のウェットフードをトッピングしたりといった工夫を試してみてください。それでも食べない場合は、無理強いせず、かかりつけの獣医師に相談しましょう。別のメーカーの療法食を試したり、サプリメントを併用したりと、その子に合った方法を一緒に探していきます。

Q2. 未去勢の男の子です。去勢は絶対に必要ですか?
A2. シスチン結石には、雄性ホルモン(アンドロゲン)の影響でリスクが高まるタイプが存在します。このタイプの場合、去勢手術によって尿中のシスチン排泄量が劇的に改善することが報告されており、非常に効果的な治療・再発予防策となります。もちろん、麻酔リスクなどを考慮する必要があるため、最終的には愛犬の状態を総合的に評価し、獣医師と相談して決定することが重要です。

Q3. 治療費はどのくらいかかりますか?
A3. 治療費は、結石の大きさや数、治療法(内科か外科か)、通院頻度によって大きく異なります。初診時には数万円程度、外科手術が必要な場合は数十万円程度になることもあります。生涯の管理が必要になるため、療法食や定期的な検査の費用も考慮しておく必要があります。ペット保険に加入している場合は、適用範囲を確認しておきましょう。

まとめ:正しい管理で、愛犬との未来を守る

シスチン結石は遺伝性の病気であり、一度付き合うと決めたら生涯にわたる管理が必要です。しかし、それは決して悲観的なことではありません。

適切な食事管理、十分な水分摂取、そして定期的なモニタリングを続けることで、結石の再発をコントロールし、多くの犬たちが元気に過ごしています。

大切なのは、飼い主さん一人で抱え込まず、私たち獣医師とチームを組んで治療にあたることです。不安なこと、分からないことがあれば、どんな些細なことでもご相談ください。一緒に、あなたの愛犬にとって最善の道を見つけていきましょう。


参考文献・引用元リスト

  • [ETTINGER'S TEXTBOOK OF VETERINARY INTERNAL MEDICINE, Chapter 308: Lower Urinary Tract Urolithiasis in Dogs]
  • [イヌとネコの腎泌尿器病学, 第8章 尿石症]
  • [Minnesota Urolith Center, 2023 Global Urolith Data]

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犬と猫のシュウ酸カルシウム結石とは?溶けない理由と再発させない食事管理https://selene-ah.com/caox/Wed, 08 Oct 2025 05:26:24 +0000https://selene-ah.com/?p=1600

まずは、この病気の基本的な特徴と、飼い主様が今すぐできることを分かりやすく解説します。 特徴1:食事や薬では「溶かせない」石 尿路結石にはいくつかの種類があり、代表的なものに「ストルバイト結石」と、今回テーマの「シュウ酸 ... ]]>

飼い主
飼い主

先生、うちの子のおしっこに血が混じっていて…。検査の結果、どうでしたか?

獣医師
獣医師

検査の結果、膀胱に結石が見つかりました。状況から見て、これはシュウ酸カルシウム結石の可能性が非常に高いです。このタイプの結石は残念ながら食事では溶かせないので、手術で取り除くのが最善の治療になります。

飼い主
飼い主

手術ですか…。それに、この結石は一度取っても再発しやすいとも聞きました。これからどうしたらいいのか、不安でいっぱいです…。

獣医師
獣医師

お気持ち、よく分かります。手術も心配ですし、何より『再発』と聞くと、これからずっと不安を抱えなければいけないように感じてしまいますよね。でも、ご安心ください。シュウ酸カルシウム結石は、正しい知識を持って、ご家庭で適切なケアを続けることで、再発リスクを大きく下げることができます


獣医師
獣医師

このページでは、そんな飼い主様の不安を解消するために、シュウ酸カルシウム結石との付き合い方を、原因から最新の予防法まで、分かりやすく徹底的に解説していきます。一緒に学んでいきましょう。

この記事でわかること

  • シュウ酸カルシウム結石が「食事で溶けない」本当の理由
  • 手術後に最も重要な「再発させない」ための食事管理のコツ
  • 獣医師が推奨する水分をたくさん摂らせるための具体的な工夫
  • 療法食選びや、おやつに関するよくある疑問
【獣医師の視点】「うちの子に限って…」と思っていませんか?

実はミニチュア・シュナウザーやヨークシャー・テリア、シーズーといった特定の犬種では、体質的にこの結石ができやすいことがわかっています。決して飼い主様の育て方のせいではありませんので、ご自身を責めないでくださいね。正しい知識を身につけ、一緒に再発予防に取り組んでいきましょう。


【前半】シュウ酸カルシウム結石で悩む飼い主様へ

まずは、この病気の基本的な特徴と、飼い主様が今すぐできることを分かりやすく解説します。

特徴1:食事や薬では「溶かせない」石

尿路結石にはいくつかの種類があり、代表的なものに「ストルバイト結石」と、今回テーマの「シュウ酸カルシウム結石」があります。

この二つの最大の違いは、食事療法で溶かせるかどうかです。

ストルバイト結石: 尿がアルカリ性に傾くとできやすくなります。そのため、尿を酸性にする特別な療法食を与えることで、石を溶かして治療できる場合があります

シュウ酸カルシウム結石: 尿が酸性に傾くとできやすくなります。しかし、一度できてしまうと、ストルバイト結石のように尿の性質を変えても溶かすことができません

この性質のため、シュウ酸カルシウム結石は外科手術や低侵襲な方法で物理的に取り除くことが主な治療法となります。

特徴2:非常に「再発しやすい」

シュウ酸カルシウム結石のもう一つの厄介な特徴は、非常に再発しやすいことです。ある報告では、食事管理を行った犬でも3年以内に最大57%、猫では2年以内に33%が再発したとされています。

だからこそ、結石を取り除いて終わりではなく、生涯にわたる再発予防、特に毎日の食生活の管理が何よりも重要になるのです。

まずは落ち着いて!診察で獣医師に伝えるべきことチェックリスト

不安な気持ちでいっぱいかもしれませんが、まずは情報を整理することが大切です。正確な情報が、より良い治療に繋がります。動物病院を受診する前に、以下の点をメモしておきましょう。

チェックリスト

・症状の記録: いつから?どんな症状?(頻尿、血尿、排尿時に痛そうにする、など)

・飲水量の変化: 最近、水を飲む量は増えた?減った?(1日の量をおおよそでOK)

・食事の記録: 現在食べているフード、おやつの名前とだいたいの量

・過去の病歴: これまでに尿路系の病気をしたことがあるか?

・質問リスト: 獣医師に聞きたいことを3つ書き出しておく(例:「手術以外の選択肢は?」「費用はどのくらい?」など)

前半のまとめと、今すぐすべきこと

シュウ酸カルシウム結石は「溶かせない」「再発しやすい」という特徴があります。そのため、治療の中心は外科的な摘出と、その後の生涯にわたる食事管理です。

最も重要なのは、飼い主様だけで判断せず、まずはかかりつけの獣医師に相談することです。

特に、おしっこが全く出ていない、ぐったりしているといった場合は、尿道閉塞など命に関わる緊急事態の可能性があります。すぐに夜間救急なども含めて動物病院を受診してください。


「結石ができた詳しい原因や、具体的な再発予防法について、もっと専門的な知識が知りたい」

そう思われた飼い主様のために、ここからは少し専門的な内容に踏み込み、病気のメカニズムや、最新の治療選択肢について詳しく解説していきます。

【後半】より詳しく知りたい方へ

ここからは、シュウ酸カルシウム結石の病態生理や、具体的な診断・治療法、再発予防の核心について、参考資料に基づき専門的に解説します。

なぜシュウ酸カルシウム結石ができるのか?

シュウ酸カルシウム結石ができる原因は一つではなく、いくつかの要因が重なり合って発生します。

理科の実験で、ビーカーの水に食塩をたくさん溶かすと、溶けきれなかった分が結晶になるのを想像してみてください。あれとよく似たことが、体の中で起こっています。

原因①【最も重要】尿が濃いこと(水分不足)

どんなに食事に気をつけていても、体の中の水分が不足して尿が濃くなってしまうと、結石の成分(ミネラル)が尿に溶けきれなくなり、結晶化しやすくなり結果として結石が作られやすくなります。

原因②シュウ酸カルシウム結石の材料が多すぎること

シュウ酸カルシウム結石はシュウ酸とカルシウムがくっついてできています。

尿の中にこの2つが多いと結石は作られやすくなります。

高カルシウム尿症(尿中のカルシウム排泄量の増加)

特発性高カルシウム尿症: シュウ酸カルシウム結石の犬で最も一般的に見られる原因です。血液中のカルシウム濃度は正常にもかかわらず、腎臓でのカルシウム再吸収がうまくいかず、尿中に過剰なカルシウムが排泄されてしまう体質的なものです。

高カルシウム血症を引き起こす疾患: 頻度は低い(約10%未満)ですが、上皮小体機能亢進症や一部の悪性腫瘍などが原因で血液中のカルシウム濃度自体が上昇し、結果として尿中への排泄量が増加することがあります。

高シュウ酸尿症(尿中のシュウ酸排泄量の増加)

食事からの吸収(外因性)
シュウ酸を多く含む食品の過剰な摂取は、尿中のシュウ酸を増やす直接的な原因となります。特に、ホウレンソウ、サツマイモ、ニンジン、豆腐、ナッツ類などの植物性食品には多くのシュウ酸が含まれているため、おやつなどで与える際には注意が必要です。
ここで重要なのは、食事中のカルシウムの役割です。食事に十分なカルシウムが含まれていると、シュウ酸は腸管内でカルシウムと結合し、吸収されずに便として排泄されます。しかし、不適切にカルシウムを制限した食事では、シュウ酸が吸収されやすい状態で腸管に残ってしまうため、かえって体内への吸収量が増加してしまうことがあります。

体内での生成(内因性)
食事だけでなく、体内でもシュウ酸は生成されます。例えば、サプリメントなどによるビタミンCの過剰摂取は、代謝の過程でシュウ酸の生成を増やす可能性があります。また、特定の代謝に必要なビタミンB6の欠乏なども、内因性のシュウ酸産生を増加させる一因となることが知られています。

原因③シュウ酸カルシウム結石ができにくくする物質が減ること

体には本来、結石ができないように防いでくれる物質(クエン酸やマグネシウム、一部のタンパク質)が存在します。

クエン酸&マグネシウム

シュウ酸とくっついて水に溶けやすい物質になったり、尿をアルカリ性にしたり(クエン酸)、シュウ酸カルシウムにくっついてそれ以上大きくならないようにしたりして、シュウ酸カルシウム結石ができにくくしています。

⇔一方でマグネシウムが増えすぎたり、尿がアルカリ性になりすぎるとストルバイト結石ができやすくなるため、ほどほどにしなくてはなりません。

診断から治療へのプロセス

多くの飼い主様が経験するように、診断は段階的に進められます。

臨床症状と各種検査

頻尿や血尿といった症状から、レントゲン検査や超音波検査、尿検査を行います。シュウ酸カルシウム結石はX線を通しにくいため、レントゲンで白く写ることが多いです。

試験的な食事療法

結石が見つかった場合、緊急ではなく、他の併発疾患もなければ、まずは食事で溶けるストルバイト結石の可能性を考え、療法食を1〜2ヶ月試すことがあります。

総合的な判断

療法食を続けてもレントゲンで結石の大きさが変わらない場合、尿検査の所見(尿pHが酸性、シュウ酸カルシウム結晶が見られるなど)、犬種や猫種といった情報を総合し、「シュウ酸カルシウム結石の可能性が極めて高い」と判断されます。

確定診断

最終的な確定診断は、手術などで摘出した結石そのものを専門機関で分析することで行われます。

治療法の選択肢:メリットとデメリット

シュウ酸カルシウム結石は溶解できないため、物理的な除去が必要です。

治療法メリットデメリット
外科的切開(膀胱切開術)大きな結石や多数の結石を一度に確実に取り除ける体への負担が大きい、入院が必要、縫合糸が核となり再発するリスクがある
低侵襲的な方法(経尿道バスケット回収など)体への負担が少なく、回復が早い小さな結石に限られる、特殊な設備や技術が必要(当院での対応不可)

どちらの治療法が最適かは、結石の大きさ、数、場所、そして動物の状態によって異なります。必ず獣医師と十分に相談して決定してください。

再発予防こそが本当の戦い:食事管理の3つの柱

手術が無事に成功しても、それで終わりではありません。再発率をいかに下げるか、ここからが本番です。

最重要:水分摂取の最大化(尿の希釈)

再発予防で最も効果的なのは、尿を薄くすることです。尿が希釈されれば、結石の成分が飽和しにくくなり、結晶化を防げます。

ウェットフードへの切り替え: 可能な限り、ドライフードから缶詰やパウチのウェットフードに切り替えることを第一に検討します。食事から自然に水分摂取量を増やすことができます。

ドライフードの場合: 食事にぬるま湯や無塩のスープを加える、水飲み場を複数設置する、循環式の給水器を利用するなど、飲水を促す工夫をしましょう。

ハイドラケアのような水分摂取を促す製品の利用も検討する価値はあるかもしれません。大きくなってからだとドライフードにぬるま湯を混ぜても飲んでくれなかったりするので小さいうちから、慣れさせることは重要です。


療法食への変更

シュウ酸カルシウム結石の再発予防用に設計された療法食は、以下のように成分が調整されています。

・カルシウム、シュウ酸の制限: 結石の原料となる成分を適切に管理します。

・クエン酸カリウムの添加: 尿を適度にアルカリ化し、シュウ酸カルシウムの結晶化を阻害するクエン酸を尿中に増やす効果が期待できます。(添加されていない尿結石用療法食も存在します。)

定期的なモニタリング

再発は症状が出る前に発見することが重要です。獣医師の指示に従い、摘出後も定期的に画像検査(レントゲンや超音波、尿検査)を受け、小さな結石のうちに対処できるようにしましょう。

もし結石を治療せずに放置したら、どうなるの?

「症状が落ち着いているなら、急いで取らなくても良いのでは?」と感じる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。しかし、シュウ酸カルシウム結石を治療せずに放置することには、様々なリスクが伴います。

1. 慢性的・継続的な痛みと不快感

結石は、膀胱のデリケートな粘膜にとっては硬い異物です。膀胱の中を転がり、壁を傷つけることで、慢性的・持続的な炎症を引き起こします。これにより、動物は常に排尿時の違和感や痛みを抱えることになり、頻尿や血尿といった症状が改善せず、生活の質(QOL)を著しく低下させます。

2. 細菌感染症の温床になる

結石の表面はザラザラしていることが多く、細菌が隠れるのに絶好の場所(温床)となります。一度細菌が住み着くと、抗生物質を投与しても結石の内部に逃げ込んで生き残ってしまうため、治りにくい膀胱炎を何度も繰り返す原因となります。

細菌感染が腎臓の方まで広がると腎盂腎炎といった病気になり、状態が急激に悪化する場合もあるため注意が必要です。

3. 結石がさらに大きく、多くなる

尿中のミネラルが付着することで、結石は時間と共に少しずつ成長し、大きくなっていきます。また、一つだけでなく、複数の結石が新たに形成されることもあります。結石が大きくなればなるほど、将来的に摘出する際の手術の負担も大きくなってしまいます。

4.【最も危険】尿道閉塞のリスク

これが、結石を放置する上で最も恐ろしいリスクです。 膀胱にあった結石が、尿の出口である尿道に詰まってしまう「尿道閉塞」を起こすことがあります。特に、尿道が細くて長いオスの動物で発生のリスクが非常に高いです。

尿道が完全に塞がってしまうと、おしっこが全くできなくなり、体に老廃物や毒素が急速に溜まっていきます(急性腎不全)。これは命に関わる緊急事態であり、閉塞を解除しなければ、わずか1〜2日で死に至る可能性があります。

手術なしで尿道閉塞を解除できればいいですが、膀胱から結石を取り出すよりもリスクの大きな手術をしなければ尿道閉塞を解除できない場合もあります。

このように、症状がなくても結石を体内に持ち続けることは、様々なリスクを抱えることになります。そのため、獣医師はこれらのリスクを総合的に判断し、適切なタイミングでの摘出を提案しています。

【FAQコーナー】

療法食は一生続けないといけませんか?
結論からお伝えすると、「最初に選んだ一つの療法食を、ただ生涯与え続ける」ことが常に正解とは限りません。
より正確には、「定期的なモニタリングに基づき、その子に合わせて内容を調整しながら、生涯にわたる食事管理を続ける」必要があります。

現在日本で利用できる尿石症用の療法食の多くは、最も発生の多い「ストルバイト」と「シュウ酸カルシウム」の両方に対応できるように設計されています。

・ストルバイトはアルカリ性の尿でできやすい
・シュウ酸カルシウムは酸性の尿でできやすい

このため、多くのフードは両者の中間である「弱酸性(pH 7.0未満)」の尿を目指して作られています。これはストルバイト予防には効果的ですが、シュウ酸カルシウム結石と確定している子にとっては、尿が酸性に傾きすぎ、かえって再発のリスクを高めてしまう可能性もゼロではありません。
また、製品によっては、結石の形成を抑える重要な成分である「クエン酸」が添加されていない場合もあります。

では、具体的にどうすれば良いのか?
シュウ酸カルシウム結石の食事管理は、微調整していく「オーダーメイドの継続的なプロセス」だとお考えください。
ステップ①:まずは「土台」となる療法食を始める
結石の原料となるカルシウムやシュウ酸などを適切に調整した、シュウ酸カルシウム対応の療法食を処方します。

ステップ②:定期的な尿検査で「答え合わせ」をする
ここが最も重要です。療法食を開始したら、必ず定期的に動物病院で尿検査を受け、そのフードがその子の体質に本当に合っているかを確認します。
・尿比重は? → 尿は十分に薄まっているか?(水分摂取量の確認)
・尿pHは? → 尿は理想的なpHになっているか?
・結晶は? → 尿中にシュウ酸カルシウムの結晶は出ていないか?

ステップ③:結果に基づき、プランを「最適化」する
もし、療法食を食べている状態で、尿が酸性に傾いていたり、結晶が見られたりする場合は、獣医師は次のような「次の手」を検討します。
・クエン酸カリウム製剤を追加する: 尿をアルカリ性に傾け、かつ結石の形成を強力にブロックする「クエン酸」を、お薬やサプリメントで直接補給します。これは非常に効果的な方法です。
・別の療法食に変更する: より尿の酸性化が緩いフードに変更を検討します。
このように、「生涯の食事管理」とは、飼い主様と獣医師がチームを組み、定期的な検査という「答え合わせ」をしながら、その子にとっての最適なプラン(療法食+α)を継続的に見つけていく治療なのです。

療法食以外のおやつは絶対ダメですか?
結論から言うと、おやつが1日の総摂取カロリーの10%未満であれば、結石形成のリスクを大幅に高める可能性は低いとされています 。

食事療法を厳格に行うことは非常に重要ですが、おやつを完全に禁止する必要はありません 。
しかし、おやつの「種類」には注意が必要です。人の食べ物やサプリメントの中には、シュウ酸やカルシウムを多く含むものがあり、尿の組成を変えてしまう可能性があります 。特にシュウ酸カルシウム結石のリスクがある場合、シュウ酸を多く含むほうれん草やさつまいも 、カルシウムが豊富なチーズ 、イワシなどの小魚類 は避けるべきです
最も安全な選択肢は、動物病院で処方される結石の種類に配慮された専用のおやつを選ぶことです 。市販のおやつや人の食べ物を与える前には、結石の種類によって適切なものが異なるため、必ずかかりつけの獣医師に相談してください 。
慢性腎臓病(CKD)も持っている猫の場合、どちらの食事を優先すべきですか?
非常に難しい問題ですが、一般的には生命に直接関わる慢性腎臓病の管理が優先されることが多いです。このケースでは、より専門的な栄養管理が必要になるため、必ず獣医師の指導のもとで食事プランを決定してください。

まとめ:正しい知識で、愛犬・愛猫との未来を守る

シュウ酸カルシウム結石は、一度付き合うことになると生涯にわたる管理が必要な病気です。しかし、その性質を正しく理解し、獣医師と二人三脚で適切な再発予防を継続すれば、多くの場合は元気に日常生活を送ることができます。

この記事が、不安を抱える飼い主様の道標となり、愛犬・愛猫との穏やかな毎日を取り戻す一助となれば幸いです。

参考文献・引用元リスト

  • イヌとネコの腎泌尿器病学 第8章 尿石症
  • Ettinger’s Textbook of VETERINARY INTERNAL MEDICINE, Chapter 159: Nutritional Management of Lower Urinary Tract Disease
  • Ettinger’s Textbook of VETERINARY INTERNAL MEDICINE, Chapter 308: Lower Urinary Tract Urolithiasis in Dogs
  • Ettinger’s Textbook of VETERINARY INTERNAL MEDICINE, Chapter 309: Lower Urinary Tract Urolithiasis-Feline

関連リンク

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