犬のクッシング症候群とは?

🐾 犬のクッシング症候群とは?

ストレスホルモン「コルチゾール」が過剰になる病気

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は、副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンが慢性的に過剰となることで起こる疾患です。コルチゾールは本来、代謝・免疫・循環などに関与する重要なホルモンですが、過剰な状態が続くと体に様々な悪影響を及ぼします【1】【2】。

発症は中高齢犬に多く、見逃されやすい

犬のクッシング症候群は、発症年齢の中央値が11歳とされており、主に中高齢の犬に多く発症します【1】。 また、特定の犬種で好発する傾向もあり、以下のような犬種では比較的多く報告されています:

  • トイ・プードル
  • ミニチュア・シュナウザー
  • ダックスフンド
  • ボストン・テリア
  • ボクサー など【2】

「元気で食欲もあるのに…」という見逃しやすさ

クッシング症候群の特徴のひとつは、食欲があり元気そうに見えるにもかかわらず、少しずつ身体に異変が現れることです。

  • お水をたくさん飲む
  • 尿の量が多い
  • ごはんをよく食べる
  • お腹がポッコリ出てきた
  • 毛が抜けるけどかゆくはなさそう これらは「年を取ったからかな?」と見過ごされがちですが、実は病気のサインかもしれません。

🐶 こんな症状があれば要注意

よく見られる初期症状

  • 多飲多尿
  • 多食
  • 腹部膨満
  • 脱毛、左右対称性の皮膚変化
  • パンティング(浅く早い呼吸)

病気が進行してくると

  • 筋力低下、足腰のふらつき
  • 呼吸が浅く早い(パンティング)
  • 外陰部の腫れ、発情の消失(雌犬)
  • 精巣の萎縮(雄犬)
  • 靭帯断裂や不自然な歩き方
  • インスリン抵抗性の上昇(糖尿病との関連)
  • 尿路感染症の反復【2】

健康診断で見つかることも

  • 肝酵素(ALP)の異常な上昇
  • 尿比重(USG)の低下
  • 血糖値・コレステロール・白血球数の異常

🔍 診断の流れ

STEP1:基礎検査と問診

  • 身体検査・問診で症状を把握(多飲多尿、脱毛、腹部膨満など)
  • 一般的な血液検査・血球計算・尿検査
  • 腹部超音波検査:副腎サイズ・肝腫大・胆泥・副腎左右差の確認

STEP2:ホルモン検査(確定診断)

  • LDDST(低用量デキサメタゾン抑制試験):確定診断と病型鑑別に有効
  • ACTH刺激試験:モニタリングやLDDSTが行えない場合の代替

STEP3:病型鑑別と画像診断

  • eACTH測定:PDH/ADH鑑別に有用、冷却処理必須
  • 画像診断(超音波・CT・MRI):腫瘍の大きさ、左右差、転移の有無など

💊 治療とモニタリング

内科療法(トリロスタン)

  • コルチゾールの合成を一時的に抑える薬を使用
  • 毎日の投薬と定期的なモニタリングが必要

外科療法

  • ADHでは副腎摘出、PDHでは下垂体摘出が行われることも
  • 術後は副腎皮質ホルモンの補充が必要となる場合がある

放射線療法

  • 下垂体腫瘍が大きく、神経症状を伴う場合などに行われる

モニタリング方法

  • ACTH刺激試験:効果判定における標準的な方法(当院で実施)
  • pre-pill cortisol:トリロスタン投与直前の基礎コルチゾール測定
    • <1.5 μg/dL:過剰な抑制
    • 1.5〜5 μg/dL:良好な抑制
    • >5 μg/dL:効果不十分
  • 臨床症状(食欲・元気・PU/PD)の日常観察が重要

❓ よくある質問 Q&A

Q. クッシング症候群は「治る」病気ですか? A. 根治ではなく、ホルモンのバランスをコントロールしていく治療です。

Q. 薬の副作用はありますか? A. 投薬量が多すぎると、副作用(アジソン症状)が出る場合があります。元気がない、吐く、下痢などが見られたらすぐにご連絡ください。

Q. 検査はどれくらいの頻度で必要ですか? A. 治療開始10日目・28日目、その後は1〜3か月ごとに検査します。

Q. 軽い症状でも治療が必要ですか? A. 放置すると進行し、合併症(糖尿病・感染症・高血圧など)のリスクがあります。早期診断・早期治療が重要です。


🏥 当院でできること

  • 院内での血液検査・尿検査・超音波検査を実施可能
  • LDDSTやACTH刺激試験の実施
  • トリロスタンによる内科療法と、その後の定期モニタリングの体制が整っています

その他多飲多尿を示す疾患についてはこちら


📚 参考文献

  1. Ettinger SJ et al. Textbook of Veterinary Internal Medicine, Chapter 293
  2. 犬と猫の内分泌疾患ハンドブック 第2版(文永堂出版)
  3. 松木直章. 犬のクッシング症候群の内科療法

JBVPクッシング症候群