犬と猫の慢性腎臓病(CKD)概要・原因・ステージ・管理方針・予後

目次

犬と猫の慢性腎臓病(CKD)概要・原因・ステージ・管理方針・予後

この記事は主に『Ettinger's Textbook of Veterinary Internal Medicine, 9th Edition』の情報を参考に作成しています。

このページでは、犬と猫の慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)について、その定義、原因、診断(ステージ分類)、一般的な管理方針、そしてモニタリングと予後(今後の見通し)といった基本的な情報を解説します。CKDの各合併症(骨ミネラル代謝異常消化器症状脱水・便秘カリウム異常貧血高血圧など)の詳しい管理方法については、それぞれの個別記事をご覧ください。

1. 慢性腎臓病(CKD)とは?

1.1. 定義

慢性腎臓病(CKD)とは、片方または両方の腎臓に構造的(形の問題)および/または機能的(働きの問題)な異常が3ヶ月以上続いている状態を指します。

1.2. 進行性と不可逆性

CKDは、残念ながら進行性(徐々に悪化する)であり、多くの場合不可逆的(元の状態には戻らない)です。

治療を行っても、病気の進行を完全に止めることは難しいとされています。

1.3. CKDと併存しやすい病態

1.3.1. 併存疾患の例

CKDの動物では、他の腎臓に関連する問題が同時に起こっていることがよくあります。

  • 腎前性/腎後性高窒素血症: 脱水や尿路閉塞など、腎臓自体以外の原因で血液中の老廃物が増える状態。
  • 活動性の腎疾患: 腎盂腎炎(腎臓の感染症)など、現在進行中の腎臓の病気。これらは「慢性腎臓病の急性増悪」と呼ばれることもあります。

1.3.2. 可逆性と診断の重要性

これらの併存疾患の多く(例:腎盂腎炎、尿管閉塞、脱水など)は、治療によって改善する可能性(可逆性)があります。

そのため、CKDの診断時には、隠れている可能性のある他の原因(寄与因子)をすべて見つけ出し、適切に評価することが非常に重要です。

1.3.3. 代償・適応機序の影響

治療可能な併存疾患(一次疾患)や腎前性・腎後性の問題を解決しても、必ずしも腎機能が大きく改善するわけではありません。

これは、体が既に腎機能低下を補おうとする仕組み(代償・適応機序)を働かせているためです。

しかし、この補おうとする仕組み自体が、長期的には残った腎臓の組織(ネフロン)に負担をかけ、さらなる機能低下を招く可能性があります。

2. CKDの疫学(有病率と好発)

2.1. 有病率(病気を持つ割合)

近年の一般的な動物病院での調査によると、CKDを持つ動物の割合は以下の通り報告されています。

  • 犬: 0.5% ~ 3.74%
  • 猫: 1.2% ~ 3.6%

2.2. 年齢との関連(特に猫)

CKDは年齢とともに発症しやすくなります。特にでは、高齢の動物に非常に多い病気と考えられています。

  • 以前は「15歳以上の猫の15~30%がCKDの兆候を持つ」と推定されていました。
  • しかし、より最近の研究では「15歳以上の猫の80%がCKDである」という非常に高い有病率も示唆されています。
  • この研究では、比較的若い猫(0~4.9歳で37.5%)でも、思った以上にCKDが多い可能性が示されました。

2.3. 猫におけるその他のデータ

  • 別の研究では、9歳以上の猫のうち30.5%が、調査開始から1年以内に高窒素血症(血液中の老廃物増加)を発症しました。
  • 腎臓病は、5歳以上の猫における最も一般的な死因の一つです。スウェーデンの調査では、12歳未満で死亡した保険加入猫の死因としても最も多いものでした。

2.4. 年齢との関連(犬)

犬においても、高齢になるとCKDのリスクは高まります。

  • 英国の調査では、12歳以上の犬は、7~12歳の犬と比較してCKDを発症するリスクが5.5倍高いと報告されています。

3. なぜCKDの発見が遅れがちなのか?

3.1. 診断される時期

犬や猫のCKDは、多くの場合、病気がかなり進行し、血液検査で異常(高窒素血症)が見つかるまで診断されません

3.2. 診断時の腎臓の状態

診断される段階では、腎臓は以下のような状態になっていることが典型的です。

  • 小さくなっている: 壊れた腎臓の組織(ネフロン)が、硬い組織(線維化)や慢性の炎症に置き換わっているため。
  • 残った組織が変化している: 生き残ったネフロンは、失われた機能を補おうと無理をしている(代償性の変化)状態です。
  • 悪化が進んでいる可能性: 無理な状態(不適応なプロセス)が続くことで、さらなる悪化が進んでいる場合があります。

3.3. 原因特定の難しさ

診断時に見られる腎臓の変化(病変)は、CKDに共通してみられるものであり(非特異的)、何が原因で最初に腎臓が悪くなったのかを特定するのは困難です。

そのため、CKDを引き起こした最初の原因(誘発原因)は通常、はっきりとは分かりません。

特定の大きな原因一つではなく、生涯にわたる小さな腎臓へのダメージ(腎障害)が積み重なった結果として発症している可能性が高いと考えられています。

4. 犬のCKD:考えられる原因

4.1. 多様な原因

犬のCKDは、様々な要因によって引き起こされる可能性があります。

  • 家族性/遺伝性: 特定の犬種で起こりやすい。
  • 先天性: 生まれつき腎臓に問題がある(例:若年性腎症/腎異形成、特に若い動物で見られる)。
  • 後天性: 生まれた後にかかる病気や状態。

4.2. 年齢による傾向

  • 高齢犬: 猫と同様に、腎臓の尿細管やその周りの組織に炎症が起こる「尿細管間質性腎炎」が見られる傾向があります。

4.3. 糸球体疾患の重要性

糸球体疾患(腎臓のフィルター部分の病気)は、猫よりも犬で非常によく見られ、犬のCKDの主な原因となっている可能性が高いと考えられています。

ただし、確定診断には腎生検(腎臓の組織を一部採取して調べる検査)が必要ですが、全てのCKDの犬が腎生検を受けるわけではないため、糸球体疾患が原因である犬の正確な割合は分かっていません。

4.4. 糸球体疾患の具体例(腎生検を受けた犬のデータ)

タンパク尿(尿にタンパク質が多く漏れ出る状態)があり、腎生検を受けた犬501頭の研究では、以下のような結果でした。

  • 免疫複合体介在性糸球体腎炎 (ICGN): 48.1% (免疫反応が関わるタイプ)
  • アミロイドーシス: 15.2% (異常なタンパク質が沈着するタイプ)
  • 巣状分節性糸球体硬化症 (FSGS): 20.6%
  • その他の非ICGN性疾患: 9% + 4.8% + 2.4% (上記以外の糸球体や尿細管の問題)

4.5. 感染症との関連

特定の感染症が糸球体疾患を引き起こし、CKDの原因となることもあります。

  • 例: ライム病(ボレリア症)、エーリキア症、アナプラズマ症、バベシア症、リーシュマニア症など。

5. 猫のCKD:考えられる原因

5.1. 主な組織学的特徴

CKDの猫の腎臓を顕微鏡で調べると、最も一般的に見られるのは以下の特徴です。これらは様々な腎臓へのダメージの結果として共通して見られる変化(最終的な共通経路)と考えられています。

  • 尿細管間質性炎症: 尿細管とその周りの組織の炎症。
  • 尿細管萎縮: 尿細管が縮んでしまうこと。
  • 線維化: 組織が硬くなってしまうこと。
  • 二次的な糸球体硬化症: 糸球体が硬くなってしまうこと(他の部分の問題に続いて起こる)。

5.2. 特定原因の診断率

一般的な動物病院でCKDと診断された猫が亡くなった後に腎臓を調べても(剖検)、**具体的な原因疾患が特定できるのは約16%**と多くはありません。

5.3. 考えられる要因(尿細管間質性腎炎の原因として)

猫のCKD(特に尿細管間質性腎炎)を引き起こす可能性のある要因として、様々なものが挙げられています。

  • 加齢
  • ウイルス感染: 猫免疫不全ウイルス(FIV)、猫モルビリウイルスなど。
  • 腎臓以外の病気: 甲状腺機能亢進症、歯周病、全身性高血圧、心臓病など。
  • 環境要因: ストレス、ワクチン、食事内容など。
  • 虚血・低酸素血症: 腎臓への血流不足や酸素不足。

5.4. 原因特定は困難

CKDの猫の大部分では、明確な原因は特定できません。

おそらく、個々の猫で異なる要因が複雑に組み合わさった結果として発症すると考えられています。

5.5. 猫特有の要因:尿細管の脂質

猫のCKDでは、尿細管にたまった脂質が病気に関わっている可能性があり、これは猫に特有の現象かもしれません。

尿細管が傷ついて細胞が死ぬと、その周りの組織(間質)に脂質が漏れ出し、これが炎症を引き起こし、最終的に線維化(組織が硬くなること)につながる可能性があります。

5.6. 加齢と腎臓の脆弱性

猫のCKDは年齢とともに著しく増加します。

これは、単に長年のダメージが蓄積するだけでなく、老化した腎臓自体がダメージを受けやすく、回復しにくくなっていることも関係していると考えられます。

猫のCKDでは、細胞の老化やテロメア(染色体の末端部分)の短縮といった変化が報告されており、これらは腎臓が傷ついた後の修復能力の低下を示唆しています。

6. CKDの重症度分類:IRISステージング

6.1. ステージングの目的

CKDの診断が確定し、動物の状態が安定したら、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が提唱する**ステージング(重症度分類)**を行います。

この分類は、CKDがどのくらい進行しているかを把握し、適切な治療方針を立てたり、今後の見通し(予後)を予測したりするのに役立ちます。

6.2. 分類方法の概要

IRISステージングは、主に腎機能(血液検査の数値)に基づいてCKDを4つの段階(ステージI〜IV)に分類します(詳細は表6.1参照)。

さらに、以下の2つの要素によって、各ステージをより細かく分類(サブ分類)します。

6.3. IRIS CKDステージの決め方

6.3.1. 基本となる指標:血清クレアチニン

ステージ分類は、主に血液検査項目である血清クレアチニン濃度に基づいて行われます(表6.1参照)。

クレアチニンは、腎臓のフィルター機能(糸球体濾過量、GFR)がどの程度残っているかを推定するためによく使われる指標です。

6.3.2. ステージングを行う際の注意点

クレアチニン値だけで判断するには限界があるため、以下の点に注意してステージを決定します。

  • 安定した状態で測定: 動物が十分に水分補給されており、体調が安定している時に測定します。
  • 絶食下での測定: 食事の影響を避けるため、絶食状態で採血します。
  • 複数回の測定: 一時的な変動を考慮し、数週間あけて最低2回測定し、その結果に基づいて判断します。
  • 臨床症状も考慮: 検査結果だけでなく、動物の実際の症状や状態(臨床状態)も考慮して、治療方針を決定します。

6.3.3. クレアチニン値に影響を与える要因

クレアチニン値は、腎機能以外にも以下のような要因で変動する可能性があります。

  • 検査室による差: 測定する施設によって結果が多少異なることがあります。
  • 個体差: 品種、年齢、性別、体型(ボディコンディション)、筋肉量(除脂肪体重)など。
  • 一時的な要因: 脱水(腎前性)や尿路閉塞(腎後性)など、一過性の問題。

6.3.4. 筋肉量の影響とSDMAの活用

特に猫では、CKDが進行すると筋肉量が減ることが多く、これがクレアチニン値を実際よりも低く見せてしまう可能性があります。

そのため、IRISは、筋肉量が著しく減少している犬や猫においては、別の腎機能マーカーである対称性ジメチルアルギニン(SDMA)の値を参考に、クレアチニンに基づくIRISステージを修正することも提案しています。(www.iris-kidney.com)

6.4. 表6.1 犬と猫のIRIS CKDステージング

A. IRIS CKD ステージ

ステージ測定項目
Stage Iクレアチニン< 1.4 mg/dL (< 125 mcmol/L)< 1.6 mg/dL (< 140 mcmol/L)
SDMA< 18 ng/dL< 18 ng/dL
Stage IIクレアチニン1.4-2.8 mg/dL (125-250 mcmol/L)1.6-2.8 mg/dL (140-250 mcmol/L)
SDMA18-35 ng/dL18-25 ng/dL
Stage IIIクレアチニン2.9-5.0 mg/dL (251-440 mcmol/L)2.9-5.0 mg/dL (251-440 mcmol/L)
SDMA36-54 ng/dL26-38 ng/dL
Stage IVクレアチニン> 5.0 mg/dL (> 440 mcmol/L)> 5.0 mg/dL (> 440 mcmol/L)
SDMA> 54 ng/dL> 38 ng/dL

B. タンパク尿によるサブステージ分類

サブステージ尿タンパク質/クレアチニン比 (UPCR) - 犬尿タンパク質/クレアチニン比 (UPCR) - 猫
タンパク尿 (P)> 0.5> 0.4
ボーダーラインタンパク尿 (BP)0.2-0.50.2-0.4
非タンパク尿 (NP)< 0.2< 0.2

C. 血圧によるサブステージ分類

サブステージ収縮期血圧 (mmHg)標的臓器障害のリスク
正常血圧< 140最小
前高血圧140 - 159
高血圧160 - 179中程度
重度高血圧≥ 180

出典: http://www.iris-kidney.com/ pdf/2 IRIS_Staging of CKD_2023.pdf. Copyright 2023 International Renal Interest Society.

6.5. IRISステージのサブステージ分類

6.5.1. サブステージ分類の目的と指標

IRISステージングでは、CKDの進行度(ステージI〜IV)を評価するだけでなく、さらに詳しい情報を加えるためにサブステージ分類を行います。 これは、治療方針の決定予後の予測に役立ちます。 サブステージ分類では、以下の2つの指標を用います。

  • タンパク尿の程度(尿中にどれくらいタンパク質が漏れているか)
  • 動脈血圧(BP)の高さ

6.5.2. サブステージ分類の注意点:タンパク尿

タンパク尿の程度は、尿タンパク質/クレアチニン比(UPCR)という検査で評価します。正確な評価のために以下の点に注意が必要です。

  • 測定前の確認事項
    • 尿路の炎症や出血がないか確認: UPCRを測定する前に、尿検査(UA)や尿培養を行い、尿路感染症、出血、炎症などがUPCRを高くする原因となっていないかを確認します。
    • 尿沈渣が非活動的であること: 尿中の細胞成分などが落ち着いている(非活動的)状態で測定する必要があります。
  • 測定方法と頻度
    • 複数回の測定: 1回の測定だけでは変動があるため、特に値が著しく高い場合や基準値以下(例: <0.2)でない限り、少なくとも2週間以上の期間をおいて2〜3回UPCRを再検査することが推奨されます。
    • 平均値で分類: 複数回測定した場合は、その平均値を用いて、「タンパク尿 (P)」「ボーダーラインタンパク尿 (BP)」「非タンパク尿 (NP)」のいずれかに分類します(分類の具体的な数値は表6.1参照)。
  • 採尿場所による違い
    • 自宅で採尿した尿は、動物病院で採尿したものよりもUPCR値が低くなる傾向があります。解釈の際にはこの点を考慮する必要があります。
  • ボーダーラインの場合
    • UPCRが「ボーダーライン」と判定された場合は、2ヶ月後に再評価することが推奨されます。
  • 分類の変動
    • CKDの進行や治療への反応によって、タンパク尿の分類(サブステージ)が変わることがあります。そのため、定期的な再評価が重要です。

6.5.3. サブステージ分類の注意点:血圧

血圧もタンパク尿と同様に変動があるため、数週間にわたって複数回測定し、安定した値に基づいて評価する必要があります。

7. CKDが体に及ぼす影響(概要)

7.1. 腎臓の主な機能障害

一般的に、CKDの犬や猫では、腎臓の働きが悪くなることで、主に以下の3つの問題が起こります。

  1. 電解質と水分の排泄障害: 体に必要なミネラルバランスや水分量をうまく調節できなくなる。
  2. 有機溶質(尿毒症毒素)の排泄低下: 体にとって不要な老廃物(尿毒症毒素)を十分に排泄できなくなる。
  3. 腎臓ホルモン合成の障害: 腎臓で作られる重要なホルモン(例:エリスロポエチン)が十分に作られなくなる。

7.2. 腎臓の組織変化との関連

腎臓の機能障害の程度は、腎臓組織に見られる炎症(尿細管間質性炎症)、組織の萎縮(尿細管萎縮)、組織の硬化(尿細管間質性線維化)の程度と関連していることが分かっています。 (注: これらの機能障害が具体的にどのような合併症を引き起こすかについては、各合併症の詳細記事をご参照ください)

8. CKDの管理:基本的な考え方

8.1. 治療の主体:内科的管理

CKDは進行性の病気であり、現在のところ、腎移植以外に腎機能の低下を元に戻したり、完全に止めたりする方法はありません。 そのため、治療の中心は内科的管理(薬や食事療法など)となります。

8.2. 管理の目標

内科的管理の主な目標は以下の通りです。

  • 代謝性合併症を最小限に抑える: 腎機能低下によって起こる体内の様々な問題をできるだけ少なくする。
  • 病気の進行を遅らせる: 腎機能がさらに悪化するスピードをできるだけ緩やかにする。
  • 良好な生活の質(QOL)を維持する

8.3. 治療計画を立てる上での重要ポイント

CKDは長く付き合っていく病気であるため、無理なく続けられる治療計画を立てることが非常に重要です。

  • 飼い主との連携
    • 飼い主の意向と実行可能性の確認: 治療計画を立てる最初のステップとして、飼い主さんが何を目標としているか、そしてどの程度まで治療(投薬など)を実行できるかを理解することが大切です。
  • 個別化された治療
    • その子に合った治療を: 治療の推奨は、画一的ではなく、個々の動物の臨床症状や検査結果、そしてその治療が本当に役立つ可能性に基づいて、個別に行うべきです。
  • 治療の優先順位付け
    • 治療の選択と優先順位: CKDの治療には多くの選択肢がありますが、すべてを行うのが難しい場合もあります。そのため、医学的な重要度や、飼い主さんの希望(費用、手間、QOLへの影響など)を考慮して、どの治療を優先するかを決める必要があるかもしれません。
  • 飼い主への説明の重要性
    • 飼い主への教育: 飼い主さんになぜその治療が必要なのか、そしてどのような効果が期待できるのかを十分に理解してもらうことが、治療を継続してもらう(アドヒアランス向上)ために最も重要です。
  • 継続的な評価と修正
    • 定期的な見直し: CKDの状態は時間とともに変化するため、定期的に診察や検査を行い、その結果に基づいて治療内容を見直していくことが必要です。
  • 獣医療チームと飼い主の関係
    • 良好な関係構築: 獣医療チームと飼い主さんとの間に強い信頼関係を築くことが、動物が病気の各段階を通じて最善のケアを受けられる可能性を高めます。 (注: 具体的な治療法(食事療法、薬物療法など)については、各合併症の詳細記事をご参照ください)

9. CKDの経過観察:モニタリング

9.1. モニタリングの基本方針

  • 個別化: CKDの治療に対する反応は、適切な間隔で経過を観察(モニタリング)し、その動物特有の、そしてしばしば変化するニーズに合わせて個別に対応していく必要があります。
  • 初期段階: 一般的に、治療を開始した直後は、その初期反応を確認できるまで、2~4週間ごとの評価が推奨されます。

9.2. モニタリングの頻度(目安)

評価(診察や検査)の頻度は、腎機能障害の重症度、合併症の有無、行っている治療内容、そして治療への反応によって異なります。以下は一般的な目安です。

  • ステージI: 状態が安定していれば、6~12ヶ月ごとの評価で良い場合があります。
  • ステージII(猫): 初期反応が確認でき安定していれば、通常3~6ヶ月ごとに経過を観察します。
  • ステージII(犬)および ステージIII(犬・猫): 腎機能の状態にもよりますが、2~4ヶ月ごとの評価が必要です。
  • 特別な治療中: EPO(エリスロポエチン製剤)やカルシトリオールを投与している場合は、生涯にわたり、より頻繁なモニタリングが必要です。

10. CKDの予後:今後の見通し

10.1. 病気の進行は様々

  • 予測の難しさ: CKDは基本的にはゆっくりと、しかし確実に進行していく病気ですが、その進行速度は個々の動物によって大きく異なります。そのため、今後の見通し(予後)を正確に予測することは困難な場合があります。単一の検査項目だけで生存期間を予測することはできません(表10.1参照)。
  • 進行パターン:
    • ほぼ一定のペースで徐々に悪化していく場合。
    • 比較的安定している期間と、急激に腎機能が悪化するエピソードを繰り返す場合。
    • 安定した期間と尿毒症クリーゼ(急性増悪)を繰り返し、最終的に亡くなる場合。
  • 進行しないケースも?: ある研究では、CKDと診断された猫213匹のうち、血清クレアチニン値が進行性に悪化したのは101匹(47%)のみでした。
  • 犬と猫の違い: 一般的に、CKDは犬よりも猫の方がはるかにゆっくり進行します。ただし、犬でもタンパク尿を伴わない先天性や家族性の腎症の場合は、進行がゆっくりなことがあります。
  • その他の要因: 検査データだけでなく、医療ケアの質飼い主さんの治療への協力度動物の治療への協力度、そして**動物が感じている生活の質(QOL)**なども予後に影響を与えます。

10.2. 生存期間の目安(中央値)

予後をより正確に判断するためには、まず治療可能な併存疾患を治療し、動物が安定した状態になってから評価する必要があります。IRISステージは予後を推定する上で参考になります。

  • 猫の場合(後ろ向き研究より):
    • ステージIIb (Cre 2.3-2.8): 中央値 1151日
    • ステージIII: 中央値 679日
    • ステージIV: 中央値 35日
  • 犬の場合:
    • 一次診療研究: 全体中央値 226日 (ステージIIIは2.6倍、IVは4.7倍死亡率↑)
    • 小規模研究: ステージII 中央値 14.8ヶ月, III 中央値 11.14ヶ月, IV 中央値 1.98ヶ月
  • 注意: これらはあくまで中央値であり、個々の予後は異なります。

10.3. 進行や予後に関連する要因(表10.1)

以下の要因が、CKDの進行や予後(生存期間など)に関連していると報告されています。

リンリン
FGF23FGF23
タンパク尿タンパク尿
貧血高血圧
体重低BCS
尿毒症毒素低筋肉量
Ca × PO₄積の増加
尿毒症毒素

まとめ

慢性腎臓病(CKD)は、犬や猫、特に高齢の動物でよく見られる、腎臓の機能が徐々に低下していく進行性の病気です。多くの場合、症状が現れる頃には病気がかなり進行しており、原因の特定も困難なことがあります。

診断後は、IRISステージングシステムを用いて重症度を評価し、個々の動物の状態に合わせて治療計画を立てます。CKDの管理は、根本的な治癒を目指すのではなく、病気の進行を遅らせ、様々な合併症(骨ミネラル代謝異常、消化器症状、貧血、高血圧など)を管理し、できる限り良好な生活の質(QOL)を維持することを目標とします。

治療の基本は食事療法や薬物療法などの内科的管理であり、生涯にわたるケアが必要です。定期的なモニタリングで状態を把握し、治療内容を調整していくことが重要となります。また、飼い主さんと獣医療チームが協力し、その子にとって最善のケアを継続していくことが、より良い時間を過ごすための鍵となります。

予後は様々ですが、適切な管理を行うことで、多くの動物が診断後も比較的長く、穏やかな生活を送ることが可能です。

この概要記事でCKDの全体像を理解した上で、各合併症(骨ミネラル代謝異常消化器症状脱水・便秘カリウム異常、貧血など)の具体的な管理方法については、それぞれの詳細記事をご参照ください。

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出典

  • Ettinger's Textbook of Veterinary Internal Medicine, 9th Edition

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