【滋賀県版2025年】犬のワクチン接種の選択をどうするか?

当院では犬の混合ワクチン接種では5種混合ワクチンと4種のレプトスピラワクチンを組み合わせています。

ライフスタイルに応じてレプトスピラワクチンを追加するかどうかを考えることになります。

レプトスピラとは?

レプトスピラ症は、「スピロヘータ」という細菌の一種である病原性レプトスピラによって引き起こされる、犬だけでなく人にも感染する可能性がある人獣共通感染症です。

主にネズミ(特にドブネズミ)が病原体を保有しているとされ、これらの動物の尿によって汚染された水や土壌が感染源となります。

犬や人は、そうした汚染環境に皮膚の傷や粘膜(口や鼻など)が接触することで感染します。

レプトスピラには300種類以上のタイプが知られており、非常に多様性の高い細菌です。

人のレプトスピラ症 ~犬は人の主要な感染源ではありません~

人のレプトスピラ症は、軽い風邪のような症状から、重症化すると黄疸、腎障害、出血などを引き起こすことまである、非常に多様な症状を示す感染症です。日本では感染症法に基づく「四類感染症」に指定されており、診断した医師は直ちに保健所へ届け出ることが義務付けられています。

国内では年間平均で約40例の発生報告があります。季節的には夏から秋(特に7月~10月)に集中する傾向が見られます。国内の感染例の約半数は沖縄県で報告されており、その多くは汚染された河川でのレジャー活動が原因と考えられています。

一方で、犬が人の主な感染源となることは極めてまれです。国内で報告された人の感染例のうち、犬との接触が感染源として疑われたのはごく一部に過ぎず、いずれも犬からの感染であると証明されたわけではありません。海外の調査でも、感染した犬と濃厚に接触していた飼い主への感染は確認されなかったという報告があります。

以上のことから、犬が人の直接的な感染源となるケースは非常に少ないと考えられます。

ただし、万が一ご自身の犬がレプトスピラ症と診断された、あるいはその疑いがある場合は、念のため適切な衛生管理(排泄物の適切な処理、触れた後の手洗いなど)を徹底することが推奨されます。

犬のレプトスピラ症

犬のレプトスピラ症も人と同様に、症状は非常に多様です。無症状の場合もあれば、発熱、食欲不振、嘔吐といった比較的軽い症状、重症化すると腎臓や肝臓、肺に深刻なダメージを与え、命に関わることもあります。重症化した場合の致死率は53.2%と非常に高いことが国内で報告されています。初期段階では特徴的な症状が見られないことも多く、診断が難しい病気の一つです。

犬における致死率は非常に高い!

季節的には、下記のグラフが示すように、報告例全体の75%が9月〜12月に集中しており、特に秋口からは注意が必要です。

犬のレプトスピラ症の届出数

滋賀県における犬のレプトスピラ症のリスクと対策

犬におけるレプトスピラ症の発生状況は、地域によって大きく異なります。農林水産省が公表している届出データによると、レプトスピラ症の届出は西日本および太平洋側に多く、滋賀県を含む近畿地方は発生が多い地域であることが示されています。

当院が拠点を置く滋賀県は、犬のレプトスピラ症の届出数が比較的多い地域です。先ほどのグラフにも示したように、2015年から2024年の10年間で19頭の発生が報告されています。これは、近隣の京都府(5頭)や大阪府(7頭)と比較しても多い数字であり、滋賀県内で犬が感染するリスクが決して低くないことを示唆しています。

滋賀県は琵琶湖をはじめとする湖沼や河川、田畑など、自然豊かな環境が広がっています。

そのため、保菌動物であるネズミなどが排泄した尿によって土壌や水辺が汚染されている可能性が考えられます。

特に、水辺での散歩やアウトドア活動、ドッグランなどを頻繁に利用するワンちゃんは感染リスクが高まるため、注意が必要です。

犬のレプトスピラワクチンの注意点 ~過剰な期待は禁物です~

滋賀県は発生報告が多い地域であるため、レプトスピラワクチンの接種を積極的に検討する必要があります。ただし、ワクチンについて飼い主様ご自身が正しく理解しておくことが大切です。

レプトスピラには多数の血清型(タイプ)が存在するため、流行している血清型とワクチンに含まれる血清型が一致していなければ、十分な効果は期待できません。実際、2017年に大阪府内で発生した集団感染では、11頭が感染し9頭が死亡しました。そのうち6頭はレプトスピラワクチンを接種していたにもかかわらず死亡しており、ワクチンの血清型と感染したウイルスの型が一致しなかった可能性が示唆されています。

血清型が異なると防御効果はあまり期待できない

犬における地域別の流行血清型については、残念ながら十分な情報がありません。

他県での調査では、国内で利用可能なワクチンで予防できる「イクテロヘモラジー」や「カニコーラ」が多数を占める報告がある一方で、ワクチンでは予防できない「ヘブドマディス」や「オーストラリス」といった血清型が多数を占めたという報告もあります。

現在市販されているワクチンは、全ての血清型をカバーできるわけではありません。また、レプトスピラワクチンの効果は1年ほどしか持続しないため、毎年追加接種が必要になります。このような理由から、ワクチンを接種していても100%は安心できないという限界があり、過剰な期待は避けるべきです。

結論として:滋賀県での予防について

大阪府の集団感染事例では、感染した犬の多くが同じ河川敷を散歩コースとしていたことがわかっています。レプトスピラ菌を持つネズミや野生動物が生息する河川や水源周辺、水たまり、ぬかるみなどは感染リスクが高い場所です。

以上の点を踏まえると、100%安心できるわけではありませんが、発生報告の多い滋賀県にお住まいのワンちゃんには、レプトスピラワクチンの接種を推奨いたします。

特に、以下のようなライフスタイルの場合は、より接種の必要性が高いと言えるでしょう。

  • 琵琶湖や河川、田んぼの周りなどをよく散歩する
  • アウトドアやキャンプ、ドッグランによく行く
  • 雨上がりの水たまりやぬかるみで遊ぶのが好き

ワクチンには、ごくまれながら副反応のリスクもあります。しかし、致死率の高いレプトスピラ症のリスクを考慮すると、接種のメリットは大きいと考えられます。

最終的には、ワクチンの効果と限界、そして副反応のリスクを総合的にご理解いただいた上で、皆様のワンちゃんのライフスタイルに合わせて判断していただくことが重要です。ご不明な点がございましたら、いつでもご相談ください。

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