猫の皮膚糸状菌症は、日常の診療でよく見られる皮膚の真菌感染症です。
特に免疫力が未熟な子猫で発症しやすく、注意が必要です。
1. 猫の皮膚糸状菌症とは?
原因菌と感染経路
猫の皮膚糸状菌症の90%以上は、Microsporum canis(イヌ小胞子菌)という真菌が原因です 。
感染した動物との接触や、菌が付着した毛、ブラシ、寝床などを介して感染が広がります 。
感染毛は、体表から離れた後も常温で最大13〜18カ月間も生存能力を保つと報告されています 。
症状
主な症状は、円形の脱毛、フケ、発赤などです 。
病変は頭部、顔面、耳、四肢にできやすい傾向があります 。
多くの場合、かゆみは軽度か、あるいは全くないこともあります 。
特に注意が必要な猫
1歳未満の子猫は特に発症しやすい傾向があります 。ペルシャを中心とした長毛種は好発品種とされ、重症化・長期化することがあります 。
人獣共通感染症として
この病気は人にも感染する可能性があるため、ご家庭での適切な対応が重要になります 。
2. 診断方法
正確な診断が、適切な治療への第一歩です。
ウッド灯検査
M. canisに感染した被毛に特定の波長の紫外線を当てると、特徴的な蛍光を発することを利用した検査です 。
直接鏡検
病変部の毛や皮膚、フケなどを採取し、顕微鏡で菌糸や分生子を確認します 。
真菌培養検査
採取した検体をDTM培地などで培養し、菌の増殖と培地の色変化で判定します 。
確定診断に役立ちますが、結果が出るまでに7−14日ほどかかります 。

3. 治療と管理
治療を成功に導くためには、全身療法と外用療法、そして環境の清浄化を組み合わせることが重要です 。
全身療法(内服薬)
イトラコナゾール
アゾール系の抗真菌薬で、皮膚糸状菌症の第一選択薬として用いられます 。脂溶性のため、食事と一緒に投与することで吸収が高まります 。10日齢の子猫に投与しても副作用が認められなかったという報告もあり、若齢猫にも使用が考慮されます 。
テルビナフィン塩酸塩
イトラコナゾールに副作用を示す場合や、治療に抵抗性を示す場合に考慮される薬剤です 。
外用療法
抗真菌薬含有シャンプー
感染した被毛やフケを効果的に除去し、体表に広く分布している可能性のある菌を減らすために全身を洗浄します 。(猫の場合、できないことも多いです。)
外用抗真菌薬
クリームやローションなどがあり、病変が限局的である場合に使用することがあります 。
治療期間の目安
治療は比較的長く、通常1〜2カ月程度かかりますが、症例により異なります 。
皮膚の症状が改善し、検査で菌が検出されなくなるまで治療を続けることが大切です 。
4. 子猫を感染から守るための予防対策
臨床現場では、新しく迎え入れた子猫がすでに感染しているケースが多く見られます 。特にブリーダーや屋外から迎えた場合に注意が必要です 。
迎えたらすぐに動物病院へ
飼育を開始したら、その日か翌日には動物病院で健康診断を受けさせましょう 。
初期の隔離と清浄化
他の動物がいる場合は、まず専用のケージで隔離します 。
体を洗浄または清拭し、伸びている爪は切り、爪の周りも清潔にします 。
環境の徹底した管理
抜け毛は、専用のハンディ掃除機や粘着ローラーでこまめに除去します 。
ケージ内で使用したタオルや毛布は、次亜塩素酸ナトリウム系の洗剤を希釈した水に1時間以上浸してから洗濯すると効果的です 。
子猫を触った後は、必ず手を洗いましょう 。
5. さいごに
猫の皮膚糸状菌症、特に子猫の場合は、早期発見と適切な治療、そして根気強い家庭でのケアが完治への鍵となります。
この病気は人にうつる可能性もある(人獣共通感染症)ため、ご家族全員で予防意識を持つことが大切です。