ネコの目の黒いシミ(びまん性虹彩メラノーマ)

ネコの眼

猫のびまん性虹彩メラノーマ(FDIM:Feline Diffuse Iris Melanoma)というのは虹彩表面の色の変化を初期の病変とする特徴的な悪性腫瘍です。

進行の速度はさまざまです。

進行に伴って色素がついた領域が広がったり、膨らんだり、瞳孔が変形したり、ぶどう膜炎、緑内障、腫瘍の転移がみられることがあります。

腫瘍は一般的に早期発見・診断が重要ですが、びまん性虹彩メラノーマでは診断自体が困難です。

明らかな腫瘍の進行がなければぶどう膜炎や緑内障といった目の異常は示しません。

また、確定診断のためには病理組織学的検査が必要になりますが、眼の機能を維持したまま、眼の中の組織(今回の場合は虹彩)をとってきて、検査するのは簡単ではありません。

ネコのびまん性虹彩メラノーマの特徴

・9歳齢以上の猫に発症することが多い

・発生に性差無し

・猫の腫瘍性疾患の50%を占めているともいわれる

・ぶどう膜炎や緑内障を起こすことがある

・遠隔転移することがある

・進行の予測ができない

ネコの虹彩の色の変化はびまん性虹彩メラノーマのみが原因ではありません。

ぶどう膜炎による虹彩の色素沈着や脱色素、先天性及び加齢性にみられる虹彩斑・虹彩母斑(いわゆるホクロやシミ、虹彩メラノーシス)や虹彩毛様体嚢胞、良性腫瘍であるメラノサイトーマ、悪性腫瘍である虹彩メラノーマで色素の変化はみられます。

虹彩メラノーシスが腫瘍化して虹彩メラノーマとなりますが、すべての虹彩メラノーシスが腫瘍化するわけではありません。

初期のびまん性虹彩メラノーマでは虹彩が膨らんだり、瞳孔の形状が変化したりしません。ぶどう膜炎や緑内障が引き起こされたりもありません。

進行速度も予測できず、10年以上かけてゆっくり進行するが眼の症状も遠隔転移もみられない場合もありますし、徐々に進行して緑内障を発症したり、急速に進行する場合もあります。

診断

確定診断は病理組織学的検査

初期の状態を見た目で診断することは不可能

早期発見のためには定期的かつ長期にわたって眼の写真を撮っていくことです。

虹彩の色素沈着している部分が厚くなっていたり、瞳孔の変形があればびまん性虹彩メラノーマを疑いますが、確定診断にはなりません。

病理組織学的検査とは?

病理組織学的検査の概要

病理組織学的検査とは、生体から採取した組織片(病変の一部または全体)から顕微鏡用の標本を作製し、それを専門医が観察することによって病気の診断を行う検査です。

多くの場合、この検査結果が病気の最終的な診断(確定診断)となり、その後の治療方針を決定する上で極めて重要な情報となります。

検査の目的

本検査の主な目的は以下の通りです。

  1. 病変の質的診断 腫瘤(できもの)などの病変が、炎症性、良性腫瘍、悪性腫瘍(がん)のいずれであるかを細胞レベルで正確に鑑別します。視診や画像検査だけでは困難な、病変の「正体」を明らかにします。
  2. 治療方針の決定 悪性腫瘍と診断された場合、その種類や悪性度(進行の速さや転移のしやすさなど)を特定します。これにより、外科手術の切除範囲の決定、化学療法(抗がん剤)や放射線治療の必要性の判断など、最適な治療計画を立てることが可能になります。
  3. 予後の予測 病変の進行度や特徴を把握することで、治療後の経過や再発のリスクといった、今後の見通し(予後)を予測するための重要な手がかりとなります。

検査の主な流れ

  1. 組織の採取(生検) 麻酔下にて、診断が必要な病変部の一部、または全体を外科的に採取します。
  2. 標本の作製 採取した組織をホルマリンで固定し、腐敗を防ぎます。その後、組織をパラフィンで固め、ミクロトームという専用の機器で数ミクロン(μm)の厚さに薄く切り出します。この切片をスライドガラスに貼り付け、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色などの方法で細胞や組織構造が観察しやすくなるように染色します。 この標本作製には、通常1〜2週間程度の時間を要します。
  3. 病理診断 作製された組織標本を、病理学を専門とする獣医師が顕微鏡で詳細に観察します。細胞の形態、配列、組織構造の乱れなどを評価し、病理学的な診断を下します。

スリットランプなどを用いた虹彩の形状の評価や超音波検査による眼内構造の評価は有用です。

治療

第一選択

眼球摘出術

びまん性虹彩メラノーマが疑われた場合は視覚があっても、遠隔転移の可能性があるため、早期の眼球摘出を検討する必要がありますが、実際どのタイミングで眼球摘出をするかの統一見解はなく、個々の疾患の進行スピードを観察しながら県とすることになります。

眼球摘出をいつ行うか?

前述したようにびまん性虹彩メラノーマの進行速度はさまざまです。

すべての虹彩メラノーシスが腫瘍化するわけではなく、発症することなく健常猫と同じように生きていける子もいます。

そのため、早ければ早いほどいいというわけでもありません。

一方で遠隔転移のリスクは時間がたつほどに増加します。

進行を写真で記録しながら眼球摘出のタイミングを検討することになります。

眼球摘出を検討するタイミング

1.色素性病変が進行したとき

2.緑内障が発症したとき

遠隔転移

びまん性虹彩メラノーマの遠隔転移の割合は19~63%と報告されています。

腫瘍の進行の程度や眼球摘出の時期によって割合に偏りがあるのだと考えられます。

遠隔転移が多いのは肝臓、腎臓、脾臓などの腹腔内臓器が最も多いですが、肺や心臓、脳などにも転移がみられることがあります。

びまん性虹彩メラノーマのポイント

9歳以上の猫の虹彩の色の変化として発見される

 ・もっと若くても出ることはあります。

 ・猫種や性別などは関係ない

診断が非常に難しく、命にかかわることもある疾患

 ・色素が増えているからと言ってびまん性虹彩メラノーマだというわけではない

 ・定期的なモニタリング(写真による記録、スリットランプ検査、超音波検査)が重要(飼い主様の協力も大切)

ぶどう膜炎や緑内障がびまん性虹彩メラノーマから発生することもある

視覚があっても腫瘍の遠隔転移を予防するために眼球摘出が推奨されることもある

 ・眼球摘出したあとも遠隔転移がないかの確認は必要

 ・眼球摘出3年後に遠隔転移がみつかった例もある