ノミ・ダニ予防ガイド【甲賀地域の犬と猫のために】
目次
ノミ・ダニ予防ガイド【甲賀地域の犬と猫のために】
はじめに:ノミ・ダニ予防の重要性
愛犬・愛猫との生活で、ノミやマダニは避けて通れない問題の一つです。これらは単に痒みや不快感を与えるだけでなく、皮膚病の原因となったり、時には命に関わる重大な病気を媒介したりします。特にマダニが媒介する**SFTS(重症熱性血小板減少症候群)**は、近年、滋賀県を含む西日本で問題となっており、犬や猫も感染・発症し、時には感染したペットから人へうつる可能性も指摘されているため、最大限の注意が必要です。
「うちの子は室内飼いだから大丈夫」「冬の間は予防しなくても平気でしょう?」といった油断は禁物です。甲賀市の気候や環境では、年間を通じた対策が欠かせません。
このページでは、ノミとマダニの生態、それらが引き起こす問題、甲賀地域でのリスク、そして具体的な予防・対策方法について詳しく解説します。
ノミについて知っておきたいこと
ノミの活動開始は「13℃」から!
ノミは気温13℃以上になると活発に活動を開始します。
甲賀市(土山)の過去の気象データ(1991-2020年)を見ると、平均気温が13℃を超えるのは5月~10月であり、この期間は特にノミの活動が活発になります。しかし、4月や11月でも日中の最高気温が13℃を超えることは珍しくなく、油断はできません。
近年の温暖化傾向を考慮すると、活動期間はさらに長くなっている可能性があり、実際、最近のデータ(2022-2024年)では4月から平均気温が13℃を超え、11月も13℃に近い値を示しています。
したがって、甲賀市では春(3月~4月頃)から晩秋(11月頃)までは、屋外でのノミ感染リスクが高い時期と言えます。
[甲賀市の月別平均気温とノミ活動開始温度を示すグラフ]
お家の中に潜むノミの「95%」!
ペットの体表で見かけるノミの成虫は、実は環境中に存在するノミ全体のわずか5%にすぎません。残りの95%は、卵・幼虫・さなぎの状態で、カーペット、ソファ、家具の下、ペットの寝床など、家の中の様々な場所に潜んでいます。
- 室内での繁殖: 暖房などが効いた室内は、冬でもノミにとって快適な温度(13℃以上)が保たれるため、季節に関係なく繁殖が可能です。散歩中にペットが付着させてきた成虫や、飼い主様の衣服に付着して持ち込まれた卵などが原因で、室内で大発生することがあります。「室内飼いだから大丈夫」とは言えません。
- 根絶には時間がかかる: 環境中に潜む未成熟な段階のノミ(卵、幼虫、さなぎ)も含めて完全に駆除するには、**最低でも2ヶ月以上の継続的な対策(予防・駆除薬の投与と環境整備)**が必要です。
ノミが引き起こす問題
- 強い痒みと皮膚炎: ノミの唾液に対するアレルギー反応で、激しい痒みや脱毛、皮膚炎(ノミアレルギー性皮膚炎:FAD)を引き起こします。
- 貧血: 多数寄生した場合、特に子犬・子猫では吸血による貧血が起こることがあります。
- 内部寄生虫の媒介: ノミは**瓜実条虫(サナダムシ)**の中間宿主です。ペットがグルーミングなどでノミを口にしてしまうことで感染します。(便に米粒のような虫の欠片が見られることがあります。)
マダニについて知っておきたいこと
マダニは吸血するだけでなく、様々な感染症を媒介する危険な寄生虫です。特にSFTSは命に関わることもあるため、正しい知識と対策が不可欠です。
どこにマダニはいるの?
マダニは、犬や猫、人を含む様々な動物から吸血する比較的大型のダニです。
甲賀地域では、公園、河川敷、山林、畑、田んぼのあぜ道、自宅の庭や身近な草むらなど、シカやイノシシ、タヌキ、ネズミといった野生動物が生息・通過する可能性のある場所に広く潜んでいます。お散歩や屋外で遊んでいる際に、気づかないうちに付着していることがよくあります。
マダニが媒介する怖い感染症
マダニは吸血時に様々な病原体を媒介します。中には命に関わる重篤な感染症もあり、ペットだけでなく人の健康にも影響を及ぼします。
- 【最重要】SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
- 原因と症状: SFTSウイルスを持つマダニに咬まれることで感染します。人では発熱、消化器症状(嘔吐、下痢、腹痛)、血小板減少、白血球減少などが主な症状で、致死率も高い(国内報告例の致死率は約27% [20])危険な感染症です。厚生労働省のウェブサイトにも詳しい情報があります。
- ペット(犬・猫)の発症: 犬や猫もSFTSに感染し、発症することがあります。特に猫では重症化しやすく、元気消失、食欲不振、嘔吐、発熱、黄疸、白血球減少、血小板減少などがみられ、致死率も非常に高い(約60%以上 [20])と報告されています。
- 地域リスク: 西日本を中心に発生しており、滋賀県でも人の患者発生および犬・猫での発生(2021年6月末時点で猫1例、犬1例)が報告されています [20]。甲賀地域も決して安全とは言えません。
[SFTS発生報告地域を示す地図]
- 人への感染経路: 主な感染経路はウイルスを持つマダニに咬まれることですが、SFTSを発症している犬や猫の血液・体液・排泄物などから人が感染したと考えられる事例も報告されています [20]。感染動物に接触する際は、過度に恐れる必要はありませんが、基本的な衛生管理(手袋の使用、手洗いなど)を心がけることが推奨されます。
- 予防が最重要: ペットをSFTSウイルスを持つマダニから守ることが、ペット自身の命を守り、さらにご家族への感染リスクを減らす上で最も重要です。
- その他のマダニ媒介性疾患 [5]
- 犬: ライム病(発熱や関節炎などを起こす)、バベシア症(赤血球が破壊され貧血や黄疸を起こす)、日本紅斑熱、エールリヒア症、アナプラズマ症など、様々な病気を媒介します。
- 猫: 猫ヘモプラズマ感染症(貧血などを引き起こす)など。
秋は「幼ダニ」に注意! 冬でも油断は禁物!
- 活動時期: マダニは主に春から秋にかけて活動が活発になります。
- 秋の幼ダニ: 甲賀市でも9月~10月頃は、草むらなどで小さな幼ダニが大量に発生することがあります。非常に小さいため気づきにくいですが、多数寄生されることがあります。
- 冬のリスク: 冬でも活動できる種類のマダニも存在します。ペットでのSFTS発生報告も冬を含む年間を通じて見られることから [20]、冬場の予防も重要です。
甲賀市での予防、いつからいつまで? → 答えは「一年中」!
甲賀市の気候と、ノミ・マダニの生態(特にSFTSを媒介するマダニのリスク)を考えると、予防が必要な時期は以下のようになります。
- ノミ: 春~晩秋は屋外での感染リスクが高まります。しかし、室内では一年中繁殖可能なため、年間を通じた対策が最も安全です。
- マダニ: 春~秋は特に感染リスクが高く、秋には幼ダニのピークがあります。冬でも活動するマダニがいるため、SFTSなどのリスクを考慮すると年間を通じた予防が不可欠です。
結論として、甲賀地域においては、ノミ・マダニ予防は一年中(12ヶ月間)行うことを強く推奨します。
(※フィラリア予防の推奨期間とは考え方が異なります。詳しくは[フィラリア予防ガイド](クラスターページ「フィラリア予防」へのリンク)をご参照ください。)
大切な家族とご自身を守るために ~具体的な対策~
ノミやマダニからペットとご自身の健康を守るためには、以下の対策を組み合わせることが重要です。
【主な対策ポイント】
- ペットへの定期的な予防・駆除薬投与(動物病院処方)
- 散歩後のペットの体チェック
- 人自身の野外活動時の対策(服装・虫除け)
- マダニが付着した場合の正しい除去
- 環境整備(草刈り・室内清掃)
【ペット】必ず動物病院で相談・予防薬を!
- 適切な薬剤選択: 体重やライフスタイル、カバーしたい寄生虫の種類に合わせて、動物病院で処方される安全で効果的な予防・駆除薬を選びましょう。市販薬とは成分や効果範囲が異なる場合があります。マダニ(特にSFTSウイルスを保有する可能性のあるマダニ)に対して効果のある薬剤を選ぶことが重要です。動物病院では、効果や安全性、ペットの状況に合わせて、スポットオンタイプ(滴下式)や食べるおやつタイプなど、最適な薬剤をご提案します。
- 定期的・継続的な投与: 多くの予防薬は月1回の投与が必要です。一年中、毎月忘れずに投与することが重要です。「うっかり忘れ」を防ぐために、カレンダーに印をつけたり、スマートフォンのリマインダー機能を活用したりしましょう。
- オールインワンタイプ: ノミ・ダニだけでなく、フィラリアやお腹の虫もまとめて予防できる便利なタイプもあります。ご希望の場合はご相談ください。
【ペット】お散歩後のチェック
- 特に草むらや山道などを歩いた後は、マダニが付着していないか、ペットの全身を丁寧に確認しましょう。
- チェックポイント: 耳の中や周り、目の周り、口周り、首周り、脇の下、内股、お尻周り、指の間など、マダニが隠れやすい場所を重点的に。ブラッシングも有効です。
【ご自身】野外活動時の服装(山林、草むらなどに入る場合)
- 長袖、長ズボン、帽子、手袋、首にタオルを巻くなどして、肌の露出を最小限にしましょう。
- シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や靴の中に入れ、マダニの侵入経路を減らします。
- 明るい色の服は、マダニが付着した場合に見つけやすくなります。
- サンダル等を避け、足を完全に覆う靴(長靴など)を履きましょう。
【ご自身】虫除け剤の活用
- マダニに効果のある**虫除け剤(ディートやイカリジンを含むもの)**を、露出した皮膚や衣類に適切に使用しましょう。使用上の注意をよく読んで正しく使うことが大切です。
【ご自身】野外活動中の行動
- マダニが多く生息する場所(草むら、笹薮など)には、むやみに立ち入らないようにしましょう。
- 地面に直接座ったり、衣類や荷物を置いたりせず、敷物などを利用しましょう。
【ご自身】帰宅後のケア
- 屋外から帰宅したら、すぐにシャワーや入浴をし、体に付着したマダニを洗い流しましょう。
- 着ていた服はすぐに洗濯するか、ビニール袋に入れて密閉しましょう。
- 全身(特に髪の生え際、耳の後ろ、脇の下、へそ、足の付け根、膝の裏など)にマダニが付いていないか、念入りに確認しましょう。
【共通】マダニを見つけたら:正しい除去を
- 絶対に無理に潰したり、引き抜こうとしないでください。 マダニの体の一部が皮膚に残り、炎症を起こしたり、病原体を体内に注入してしまう危険があります。
- 除去方法: 先の細いピンセット(マダニ除去専用の器具も市販されています)で、皮膚にできるだけ近い部分でマダニの頭部(口器)をしっかりと掴み、ゆっくりと真上に、まっすぐ引き抜きます。
- 除去後: 刺された部位を石鹸と水でよく洗い、消毒薬で消毒します。
- 体調観察: 除去後、数週間はペットやご自身の体調変化(発熱、発疹、倦怠感など)に注意し、異常があれば速やかに動物病院または医療機関を受診してください。その際、マダニに刺されたことを必ず伝えてください。
- 難しい場合: 自分での除去が難しい場合や、口器が残ってしまった疑いがある場合は、無理せず動物病院または皮膚科を受診しましょう。
【共通】環境整備
- 屋外: 自宅の庭などの草刈りを定期的に行い、落ち葉などを掃除して、マダニが生息しにくい、風通しの良い環境を作りましょう。
- 室内: ペットが持ち込んだノミの繁殖を防ぐため、こまめな掃除機がけ(特にペットの寝床周り、カーペット、家具の下など)や、寝具の洗濯を行いましょう。
甲賀市の自然豊かな環境は、ペットにとっても私たちにとっても魅力的ですが、ノミ・マダニ、そしてSFTSなどの感染症リスクも常に隣り合わせです。
正しい知識を持ち、年間を通じた適切な予防策を継続することで、大切な家族とご自身の健康を守りましょう。
参考文献
- [5] 石田卓夫(総監修) (2020). 犬の内科診療 Part 1. 緑書房.
- [20] 松鵜 彩 (鹿児島大学). ダニ・蚊媒介感染症の最新の状況について SFTSの最新の状況について. 令和3年度 動物由来感染症対策技術研修会 資料.
- 厚生労働省. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について. (参照年月日: 2025-04-20). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169522.html